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(ゾム視点)
「A。」
「ああ、あなた。おはようございます。」
彼女は今日も変わらず、俺に向かって微笑んだ。
その目は一応こちらを向いているが、恐らく俺を映してはいない。
あの日、彼女を取り戻そうとした領主が拠点に乗り込んできて、目の前でエーミールが死ぬ所を見てしまった日から、彼女は完全に壊れてしまった。
「この所よく一緒に居て下さいますけど、政務はよろしいのですか？」
「ああ、大丈夫や。ありがとな。」
彼女は、きっと激しい後悔に襲われたのだろう。
自分が屋敷から出ようとなどしなければ、こんなことにはならなかったはずだ、と。
だから彼女は自分の中で、''選択をやり直して''しまったのだ。
「なあ、A。ずっと引きこもっとると体に悪いで。外に……」
「どうして？」
突然声から抑揚が失われる。
外に連れ出そうとすると、いつもそうだった。
無理矢理連れて行くことは簡単だし、外に出ることがトリガーになって彼女の正気が戻るのでは、という期待もある。
だけど実行できないのは、一度そうやって連れ出した結果がコレだから。
そういう意味では、俺も彼女も大して変わらないのかもしれない。
「私には、あなただけいればいいんです。」
「そう、か……。」
どうしてこうなってしまったんだろう。
ただ俺は、生まれてからずっと何かに縛られてきたであろう彼女に、自由というものを教えてやりたかった。
愛して欲しいなんて不自由を強いるつもりもなくて、見つめ合って名前を呼ぶくらいでもよかった。
今の彼女は、人であると認識したもの全てを「あなた」と呼ぶ。
彼女の世界には、もう「あなた」しか存在しないのだ。
「なあ、ゾム、って言ってや。」
「ぞ、む……？」
彼女の口から音として発せられるそれは、人名とは認識されていないだろう。
エーミールのことは記憶にあるようだが、口にした瞬間酷いパニックを起こしたので、それ以来触れないようにしている。
「ごめん、ごめんな、A……。」
「どうして謝るのですか。」
彼女はいつも文句のひとつも言わず、「あなた」がいてくれさえすればいい、と言う。
最初は、それが本当は俺に向けられたものではないと分かるのが辛かった。
けど最近は、それでも彼女に必要とされているのが嬉しく感じられて――。
もしかすると、俺も段々狂ってきているのかもしれない。
END2：パンドラの檻の外
(曰く、最悪の災厄とは、希望のことである。)
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笹良柚紀(プロフ) - 碧さん» コメントありがとうございます！今後も拗らせた話を中心に書いていきますので、お付き合い頂ければ幸いです〜 (2019年11月8日 21時) (
レス) id: da544bddee (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして、いつも楽しく読ませていただいております！ヤンデレ大好きです（真顔）。これからも頑張ってください！応援しています。 (2019年11月8日 20時) (レス) id: b98328a63d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：笹良柚紀
| 作成日時：2019年2月9日 3時
