パンドラの檻。【ht、zm】 ページ18
(夢主視点、ファンタジー設定、謎のマルチエンド)
私は幸せだと思う。
貴族の家の娘に生まれた以上、家の力を増やすための道具として使われるのは当然のこと。
私はとあるパーティーにて1人の領主様に見初められ、彼と結婚することになった。
実家の格を考えれば、東の辺境とはいえ地方領主に嫁げるなんて逆玉もいいところ。
しかも、旦那様はとても優しい方で、領民から慕われ、私を大切にしてくれる。
これ以上を望むのは罰当たりというものだろう。
「おはようございます、ひとらん様。」
「おはよう。名前を呼んでもらうのも悪くないけど、せっかく夫婦になったんだから『あなた』って呼んでほしいなぁ。」
そう言って笑顔を向ける彼に、私は曖昧に微笑み返して朝食の席についた。
結婚してひと月くらい経っただろうか。
彼は私が望んだことは大抵叶えてくれるし、私に望むのは先程のようなささやかなこと。
それだって、基本的に強制はしない。
お屋敷の中は広くて綺麗で、まあ、田舎なので周囲には牧場と畑くらいしかないけれど。
不満に思うことなんて何もない。
強いていえば、ひとらん様があまりに私を甘やかすので、自分が駄目になってしまわないか心配……というくらいだ。
「A、何か欲しいものはない？ 困っていることは？」
それはもはや、彼の口癖のようなものになっている。
最近ではもう何も頼むことがないので、お礼だけ返すことが日常と化しているのだが。
今日はひとつ、頼みたいことがあった。
「では……その、以前勉強を習っていた先生をこちらへお呼びしたいのですが。」
料理の皿から視線をあげた瞬間、私は凍りつく。
これまでに見たことのない、全くの無表情な顔がそこにあった。
しかし彼はすぐにいつもの笑顔に戻り、口を開く。
「新しい先生じゃ、嫌？」
「えっ……と。とても良い先生でしたから、出来ればと思ったのですけれど。でも、無理にとは……。」
スープの皿へと再び視線を落とす。
少しでも良い嫁ぎ先へ行けるよう教養を、と両親が探してくれた家庭教師。
私に、勉強は楽しいものだと教えてくれた人だった。
結婚することへの唯一の心残りが、もう彼から学べなくなることだと言ってもいいくらい。
けど、流石にわがまま過ぎたかしら。
それとも、女が知識を身につけようなんて生意気だと思われたのか。
「そんな顔しないで、A。」
顔を上げると、彼の困ったような笑顔が目に入る。
「大丈夫、ちゃんと手配してあげるからね。」
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笹良柚紀(プロフ) - 碧さん» コメントありがとうございます！今後も拗らせた話を中心に書いていきますので、お付き合い頂ければ幸いです〜 (2019年11月8日 21時) (
レス) id: da544bddee (このIDを非表示/違反報告)
碧 - 初めまして、いつも楽しく読ませていただいております！ヤンデレ大好きです（真顔）。これからも頑張ってください！応援しています。 (2019年11月8日 20時) (レス) id: b98328a63d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：笹良柚紀
| 作成日時：2019年2月9日 3時
