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「あ、あのね、有一郎。」



Aは何やらあわあわした様子で俺を見据える。
何かを恥じらうようなそんな姿が愛らしいと思った。



「料理、教えて欲しくて…」



俺を頼りにしてくれている。他の誰でもない俺を。それだけで頬が緩んでしまうのがわかった。

そんなだらしないであろう顔を隠すように立ち上がるといそいそと台所に向かう。



「有一郎…?」

「…料理、するんだろ。今から。」



途端、Aは小さな子供のようにあどけなく笑い、うん!と言って俺の後ろをついて来た。

ギシギシと床が僅かに軋む音だけが響いていた。



























「…こう?」

「ああ、そうやって皮を剥くんだ。」

「ありがとう。」



不器用にたどたどしく大根の皮を剥く姿があどけなく、とても危なっかしいものだから目が離せない。
包丁でいつ指を切るのか冷や冷やしながらその様子を見守っていた。

刹那、Aは包丁の刃で自分の指を誤ってしまった。だから心配だったんだ。



「痛た…」



鮮血が一滴、その指先から滴る。
その鮮血を洗い流す為にAの傷口を水で洗う。跳ねる水滴が宝石の欠片のように見えた。

俺は持っていた小さな布で手際良く、Aの傷口を縛った。



「ごめんね。ありがとう。」

「ああ。」



失敗しないようにしてたんだけどなぁ、とAは恥ずかしそうに笑った。



「……あんまり傷は作るなよ。」

「なんで?痛いから?」

「…傷がついてると嫁入りとかに、関係してくるんだろ?女は。」



____まあAが知らない奴の嫁になるなんてことになったら嫌だけど。



喉元まで出かかったその言葉を俺は空気と共にぐっと飲み込んだ。


想像しただけで嫌な汗が出てくる。拳が震える。息の吸い方すらわからなくなる。

しかし、Aはあまりにも唐突で意外な言葉を投げ掛けてきた。



「…私、お嫁さんになるなら有一郎のお嫁さんになりたいなぁ。」



ふふっ、と俺を何処か遠くへ(いざな)うように頬をほんのり色付けて笑みを零した。

刹那、時間が止まったかのような感覚に陥る。
何か熱いものがどくどくと胸の中に流れてくる。
ヒュッ、と息が詰まる。
浮くことなんて決してできないのに、とてつもない浮遊感に襲われる。



嗚呼、狡い。

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白霞(プロフ) - ゆっくり四つ葉さん» コメントありがとうございます。お返事遅くなってしまい申し訳ありません。複数回読んで頂けたのですね…!感謝の限りでございます。そんな風に言ってくださりありがとうございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年9月15日 7時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくり四つ葉 - 何回でも見に来て涙腺崩壊させられてます。しかも作者様一人一人に返信までしてくださっていて…!作者様の良い人が滲み出ている…なんというか、はい、土下座したいくらい素晴らしい作品でした。このお話、ずっとずっと語り継がれていたらいいなぁ… (2020年9月2日 22時) (レス) id: 135b7cf6d1 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - シバさん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けて光栄の極みでございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月30日 21時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
シバ - あれ……………目の前がぼやけてきたぞ…… (2020年8月30日 11時) (レス) id: 344258cf85 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - かりんさん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けて感謝の限りです。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月21日 0時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白霞 | 作成日時:2020年6月20日 20時

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