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「あ、もう時間だ。」



ぽつりと、Aがそう呟いた。
時間。それはきっとあれ(・・)の時間と言うことだ。



Aは両親の遺影が飾れている部屋まで行くと、仏壇の前に正座をした。

俺は黙ってそれを見守る。



Aは白魚のような手を伸ばして、淡い煙が先端から靡く線香をあげる。

そしてその小さな手の平を重ね、勿忘草の瞳を固く閉ざす。縁取るような睫毛の束がより一層質量を増したように見えた。

さらりと漆の髪がひと房、Aの肩から滑り落ちる。その姿が妙に神秘的で儚いものだった。



Aは毎日決まった時間に神に祈りを捧げる。その小さな手の平を重ね合わせて、心の中で祈りの言葉を囁く。

俺は神様なんて夢物語なもの、信じていない。
ただ、Aが信じているならば、信じさせてやりたいから。だから、俺は神様なんていないということを知らないふりする。


さわさわと銀杏の葉が風に揺られて、まるで子守唄を口ずさむような音だけが無機質な部屋の中に漂う。

Aの瞳がほんの少し開かれた時、その祈りが終わったことを意味した。



「ごめんね、有一郎。いきなり。」

「いや。慣れてるし。」

「それもそうだね。」



Aは着物の皺をぱっぱと伸ばすと遺影を一瞥して元いた部屋に戻って来る。



彼女は毎日毎日、健気にこの世にないであろう存在には祈りを捧げる。
神様なんて信じちゃいない存在だけど、俺はAの祈る姿が好きだ。

その一途で馬鹿みたいに健気な姿が。






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白霞(プロフ) - ゆっくり四つ葉さん» コメントありがとうございます。お返事遅くなってしまい申し訳ありません。複数回読んで頂けたのですね…!感謝の限りでございます。そんな風に言ってくださりありがとうございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年9月15日 7時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくり四つ葉 - 何回でも見に来て涙腺崩壊させられてます。しかも作者様一人一人に返信までしてくださっていて…!作者様の良い人が滲み出ている…なんというか、はい、土下座したいくらい素晴らしい作品でした。このお話、ずっとずっと語り継がれていたらいいなぁ… (2020年9月2日 22時) (レス) id: 135b7cf6d1 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - シバさん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けて光栄の極みでございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月30日 21時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
シバ - あれ……………目の前がぼやけてきたぞ…… (2020年8月30日 11時) (レス) id: 344258cf85 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - かりんさん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けて感謝の限りです。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月21日 0時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白霞 | 作成日時:2020年6月20日 20時

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