． ページ30
．
それからどれくらい経っただろう。
俺は神様に、仏様にただただ祈りを捧げていた。
生まれ変わってもAの傍にいられるように。無一郎が助かるように。バチが当たるのは俺だけにしてくれるように。
血を吐きながらただただ祈り続けた。
もう痛みもとうに麻痺してしまっていた。ただただ生温い液体が色んなところから滴るのを感じるばかりだった。
「…神様、仏…様…どうか…どうか…弟だけは…助けてください…弟は…俺と…違う…心の優しい……子です…人の…役に…立ちたいと…いうのを…俺が…邪魔した…」
俺は阿呆だ。散々神様や仏様はいないと言っておきながら、最期の最期にその存在に縋っているんだから。
こんな皮肉で馬鹿な話、他にあるものか。
震える声で祈り捧げていたら、無一郎が這いつくばって家に戻って来た。全身が血濡れていて見ていて痛々しい。汗と涙と鮮血で顔はぐちゃぐちゃだった。
無一郎は横たわる俺とAの名を掠れた声で呟いていた。
＿＿＿＿兄さん、A…。
そしてそっと、数え切れないほどの雫を瞳から零して、俺とAの繋がれた手に自身の手を重ねた。
その手は兄として俺が守っていこうと決意した時の小さな手ではなかった。
人を守った、優しく強く逞しい手だった。
「わかって…いたんだ…本当は……無一郎の…無は……“無限”の“無”なんだ…」
＿＿＿＿お前は、自分ではない誰かの為に無限の力を出せる、選ばれた人間なんだ。
その言葉を言い終わった瞬間、激しい目眩と眠気に覆われた。
僅かな温もりを残すAと無一郎の手。
A。Aはまだ生きている。この温もりがその証拠だ。
嗚呼、神様仏様。どうか、どうか。
俺の愛する人達の命の灯火を消さないでくれ。
その為だったら俺は地獄へでも何処へでもいくから。どんなものだって耐えてみせるから。
この二人の命を繋いでくれ…。
俺が死に際、短い十一年の生涯に幕を閉じる最期の瞬間に見たものは。
愛しい弟と、愛している女の姿だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白霞(プロフ) - ゆっくり四つ葉さん» コメントありがとうございます。お返事遅くなってしまい申し訳ありません。複数回読んで頂けたのですね…！感謝の限りでございます。そんな風に言ってくださりありがとうございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました！ (2020年9月15日 7時) (
レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくり四つ葉 - 何回でも見に来て涙腺崩壊させられてます。しかも作者様一人一人に返信までしてくださっていて…！作者様の良い人が滲み出ている…なんというか、はい、土下座したいくらい素晴らしい作品でした。このお話、ずっとずっと語り継がれていたらいいなぁ… (2020年9月2日 22時) (レス) id: 135b7cf6d1 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - シバさん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けて光栄の極みでございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました！ (2020年8月30日 21時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
シバ - あれ……………目の前がぼやけてきたぞ…… (2020年8月30日 11時) (レス) id: 344258cf85 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - かりんさん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けて感謝の限りです。最後まで閲覧頂きありがとうございました！ (2020年8月21日 0時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白霞
| 作成日時：2020年6月20日 20時
