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「あ、おばさん!これお爺ちゃんがおばさん達にって。」
そう言ってAは持っていた風呂敷を差し出した。
雪のように真っ白なその風呂敷は、Aの漆の如く黒い髪によく映えていた。
「まあ、良いの?ありがとう。」
母さんはAから包みを受け取る。中にはきっとAの爺ちゃんが作った煮物やら焼き魚やらが入っているのだろう。
えへへ、どういたしまして、と笑うAの頭を母さんがひと撫でした。
さらさらとした、蜘蛛の糸のように細いAの髪の毛が母さんの手に掬われて零れ落ちる。
その光景が妙に神秘的で、思わず生唾を呑んだ。
「有一郎、鶴。」
柄にもなく惚けていると、目の前にAの顔があった。勿忘草色の瞳がゆらゆらと揺れている。
これは神様からの贈り物なのだろうか、と考えてしまったことがあるほどに美しいその瞳は、今俺だけを捉えていた。
ヒュッ、と息が詰まった。
「…またかよ。」
「えー、じゃあ無一郎に教えて貰う。」
「…良いから。来いよ。」
ぐいっとAの白魚のような腕を引っ張る。
その腕はとてもか細くて、少しでも力を篭めたら折れてしまうんじゃないかって心配になるほどに。
無一郎に教えて貰う、と言われた瞬間身体が勝手に動いてしまった。それはきっと、無一郎のところに行って欲しくないから。
「いい加減覚えろよ?」
「覚えられたら嬉しい。けど、」
「けど?」
Aは少しだけ気恥しそうに、はにかむようにして微笑んだ。頬も心做しかほんのりと赤を宿している。
「…覚えちゃったら、有一郎に教えて貰えなくなっちゃうね…」
勿忘草の瞳を揺らして、そう言った。
ぎゅっと心臓が何かに締め付けられた。
でも胸の内は暖かい何かが溢れていた。
「…そうかよ。」
…前言撤回。
一生覚えなくて良い。だって、この時間だけは。
お前は神様じゃなくて、俺に縋っているんだろ?
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白霞(プロフ) - ゆっくり四つ葉さん» コメントありがとうございます。お返事遅くなってしまい申し訳ありません。複数回読んで頂けたのですね…!感謝の限りでございます。そんな風に言ってくださりありがとうございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年9月15日 7時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくり四つ葉 - 何回でも見に来て涙腺崩壊させられてます。しかも作者様一人一人に返信までしてくださっていて…!作者様の良い人が滲み出ている…なんというか、はい、土下座したいくらい素晴らしい作品でした。このお話、ずっとずっと語り継がれていたらいいなぁ… (2020年9月2日 22時) (レス) id: 135b7cf6d1 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - シバさん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けて光栄の極みでございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月30日 21時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
シバ - あれ……………目の前がぼやけてきたぞ…… (2020年8月30日 11時) (レス) id: 344258cf85 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - かりんさん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けて感謝の限りです。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月21日 0時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白霞 | 作成日時:2020年6月20日 20時