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ある日、俺と無一郎は薪を取るために山の中に入った。黄色い銀杏がひらひらと舞い踊る季節だった。

無一郎はひたひたと俺の後を着いて来た。俺は無一郎に目もくれずただ歩き続けた。



無一郎は綺麗事ばかりほざく。でも綺麗事だけじゃこの世界は生きていくことはできないから。俺は無一郎に教えてやったんだ。



「情けは人の為ならず。誰かの為に何かしてもろくなことにはならない。」



無一郎はその言葉に悲しそうに眉を下げた。
その流れるような目尻がAと少しだけ似ていた。



「…違うよ。人の為にすることは巡り巡って自分の為になるって意味だよ。父さんが言ってた。」



ほら、やっぱり。
無一郎は綺麗事しか知らないんだ。
この世界では綺麗事を言っている奴らから順々に蹴落とされていく。

俺は唯一無二の弟を守らなくちゃいけない。
だからきつい言葉で無一郎を諭した。



「人の為に何かしようとして死んだ人間の言うことなんてあてにならない。」

「何でそんなこと言うの?父さんは母さんの為に…」

「あんな状態になってて薬草なんかで治るはずないだろ。馬鹿の極みだね。」



すると無一郎は悲しそう兄さん、酷いよ…と呟いた。

ああ、そうさ。俺は酷い奴だよ。弟にも好いてる奴にも優しくできない、非道な人間だよ。



「嵐の中を外に出なけりゃ、死んだのは母さん一人で済んだのに。」



そう呟くと今まで控えめにしかものを言わなかった無一郎が声を荒らげた。
目には薄い涙の膜が張っていた。

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白霞(プロフ) - ゆっくり四つ葉さん» コメントありがとうございます。お返事遅くなってしまい申し訳ありません。複数回読んで頂けたのですね…!感謝の限りでございます。そんな風に言ってくださりありがとうございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年9月15日 7時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくり四つ葉 - 何回でも見に来て涙腺崩壊させられてます。しかも作者様一人一人に返信までしてくださっていて…!作者様の良い人が滲み出ている…なんというか、はい、土下座したいくらい素晴らしい作品でした。このお話、ずっとずっと語り継がれていたらいいなぁ… (2020年9月2日 22時) (レス) id: 135b7cf6d1 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - シバさん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けて光栄の極みでございます。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月30日 21時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)
シバ - あれ……………目の前がぼやけてきたぞ…… (2020年8月30日 11時) (レス) id: 344258cf85 (このIDを非表示/違反報告)
白霞(プロフ) - かりんさん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けて感謝の限りです。最後まで閲覧頂きありがとうございました! (2020年8月21日 0時) (レス) id: 7828c1c33e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白霞 | 作成日時:2020年6月20日 20時

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