柄でもないけれど。【青】 ページ7
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「うるせえな、」
違う。
「お前には何もわかんねえよ。」
こんな事を言いたいんじゃない。
秋が近付く少し肌寒くなり始めた夏の夕暮れ。
仕事関係の女性と飯に行く事となった。
断ると今後に関わる、そう思い。
でも彼女には言えずに当日になり、偶然鉢合わせた。
丁度女性が躓いた時に手を差し伸べた瞬間
『え、』
愛しい人の声が、少しばかり拒絶する声が、聞こえた。
「..え、おま。」
俺が声を出す前に彼女は何事もなかった様に
隣を足早に過ぎ去っていく。
気が気じゃないまま飯を終え女性を家の近くまで送る。
一人になった途端にタクシーに乗り込み彼女の家まで。
インターホンを鳴らすと、癖なのか確認もせずに
すぐに開かれる扉。
「危ねえから、確認しろ..って、」
真っ赤に腫れた瞳。
『帰って、』
「ごめん、A。俺、」
『帰ってよ!○太のばか!』
あまりにも大きな声で言うものだから咄嗟に彼女の肩を押して
玄関に入る。と、同時に腕の中へと収めた。
「言わなくてごめん、」
『私ってその程度なの?』
「違う、『違わないでしょ。』
「うるせえな、お前には何もわかんねえよ。」
この言葉を告げた途端彼女は顔を上げ、目を丸くさせていた。
己自身も想像しなかった程の低い声。
「お前が思ってる以上に俺はお前が好きだよ。」
「今こうして謝罪の言葉を言いに来たのも、手放したくないから。」
俺がこんなマメな人間じゃないって知ってるはずだろ。
面倒な事には手を出さないと。
『○太、』
「Aごめんな、次からは必ず。」
頬に手を添えてしっかりと瞳を見据える。
驚きから止まっていた涙は再び溢れ出し、鼻を啜る音さえも。
『ごめんなさ、..』
「お前は何も悪くない、謝んな。」
親指で零れる涙を拭う、小さな子供の様にわんわんと泣き始めて
俺から溢れ出すのは愛しさからの笑み。
それほどまでに彼女を不安に追い込んだのは俺の責任。
「好きだよ、A。泣いた顔も。」
『うるさいから、』
勢いよく胸元に顔を埋めて抱き着く華奢な体も、
「部屋入っていい?」
『だめ、』
涙を流しながらも意地の悪い事を言って少し笑ってしまう所も、
「じゃあ、今日はAの好きな事に何でも付き合うから。」
『本当に?なら朝までトランプ..』
「それは全然良くない。」
『何でもって言ったじゃん!』
冗談を言い合いしてると自然と涙を止めている所も、
俺の宝物だ。
こんな事がお前にバレると柄じゃないと笑うだろう。
だから胸の内に、
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作者名:Rabiy. | 作成日時:2020年9月9日 7時