検索窓
今日:2 hit、昨日:6 hit、合計:29,367 hit

柄でもないけれど。【青】 ページ7

.

「うるせえな、」
違う。

「お前には何もわかんねえよ。」
こんな事を言いたいんじゃない。

秋が近付く少し肌寒くなり始めた夏の夕暮れ。
仕事関係の女性と飯に行く事となった。
断ると今後に関わる、そう思い。
でも彼女には言えずに当日になり、偶然鉢合わせた。

丁度女性が躓いた時に手を差し伸べた瞬間

『え、』

愛しい人の声が、少しばかり拒絶する声が、聞こえた。

「..え、おま。」

俺が声を出す前に彼女は何事もなかった様に
隣を足早に過ぎ去っていく。

気が気じゃないまま飯を終え女性を家の近くまで送る。
一人になった途端にタクシーに乗り込み彼女の家まで。

インターホンを鳴らすと、癖なのか確認もせずに
すぐに開かれる扉。

「危ねえから、確認しろ..って、」

真っ赤に腫れた瞳。

『帰って、』
「ごめん、A。俺、」
『帰ってよ!○太のばか!』

あまりにも大きな声で言うものだから咄嗟に彼女の肩を押して
玄関に入る。と、同時に腕の中へと収めた。

「言わなくてごめん、」
『私ってその程度なの?』
「違う、『違わないでしょ。』

「うるせえな、お前には何もわかんねえよ。」

この言葉を告げた途端彼女は顔を上げ、目を丸くさせていた。
己自身も想像しなかった程の低い声。

「お前が思ってる以上に俺はお前が好きだよ。」
「今こうして謝罪の言葉を言いに来たのも、手放したくないから。」

俺がこんなマメな人間じゃないって知ってるはずだろ。
面倒な事には手を出さないと。

『○太、』
「Aごめんな、次からは必ず。」

頬に手を添えてしっかりと瞳を見据える。
驚きから止まっていた涙は再び溢れ出し、鼻を啜る音さえも。

『ごめんなさ、..』
「お前は何も悪くない、謝んな。」

親指で零れる涙を拭う、小さな子供の様にわんわんと泣き始めて
俺から溢れ出すのは愛しさからの笑み。
それほどまでに彼女を不安に追い込んだのは俺の責任。

「好きだよ、A。泣いた顔も。」
『うるさいから、』

勢いよく胸元に顔を埋めて抱き着く華奢な体も、

「部屋入っていい?」
『だめ、』

涙を流しながらも意地の悪い事を言って少し笑ってしまう所も、

「じゃあ、今日はAの好きな事に何でも付き合うから。」
『本当に?なら朝までトランプ..』
「それは全然良くない。」
『何でもって言ったじゃん!』

冗談を言い合いしてると自然と涙を止めている所も、
俺の宝物だ。

こんな事がお前にバレると柄じゃないと笑うだろう。
だから胸の内に、

.

嬉し涙の訳は。【桃】→←*ご挨拶



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (58 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
222人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:Rabiy. | 作成日時:2020年9月9日 7時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。