懐かしくも愛しい味。【赤】 ページ38
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今日は同期で飲みに行く日。
事前に恋人には告げていた。
『行って来るね、終電までには帰って来るから。』
「Aお酒弱いんだから飲み過ぎないでね。」
玄関先で私に抱き着きながら言う彼は心配性。
『わかってるよ。』
何て笑いながら言うと「行ってらっしゃいのキス。」と
小さな口付けをくれた。
少しの残業を終えて同期4人と近くの居酒屋へ。
断れない性格の私は勧められると飲んでしまう。
やはり2軒目に向かう最中は千鳥足に。
同期の女の子に肩を貸して貰いながら歩いていると
「あれ、A？」
『はいー？』
顔を上げた先に居たのは元彼のジェシー。
「久し振りじゃん、めっちゃ飲んでんね。」
『うるさいなあ、何で此処に居んの。』
「慎太郎と飯食ってんの、Aは？」
『同期と飲み。この子も同期。』
隣の彼女を紹介すると二人共頭を下げる。
「ちょっと話したいからA貸して貰えますか。」
彼がそう言うと同期も「どうぞ！」と肩に置いて居た手を
彼の方に預けた。酔いは良い感じに回っていて抵抗も出来ない。
「慎太郎には連絡してるから、少しだけ、ね。」
近くの人気の少ないベンチまで連れて行ってもらい
途中で水も買ってもらい、至れり尽くせり。
「彼氏居んの。」
『居る、二個上の。』
水のお陰で少し酔いは醒め冷静に対応する。
「..俺まだ納得出来てないんだ。別れた事。」
『私だって別れたくなかったよ。でも、』
「またやり直せない？」
ペットボトルを持った私の手に彼の手は重なり
隣に視線を向けると綺麗な奥目な瞳に私が映る。
『だ、駄目だよ。私には彼が居るもん。』
目を背ける事しか出来なかった、それでも彼は
「なら奪っちゃってもいい？俺が幸せにしたい。」
そう言う彼の声は今まで聞いた中で一番真剣な者だった。
『ジェシ、やめて。本当に..』
「やめない、俺はAが好きなんだ。」
『私だって..！』
「好き？じゃあこっちおいで。」
途端に彼の顔は近づき影が重なった。
朝に貰った口付けよりも甘く切ない味。
『..やだ。もっとちゃんと奪って。』
最低な女になったもんだな、私も。
でも彼を別れても尚追い掛けていて忘れた事は一度もなかった。
酔いは醒め、彼には酔いしれ。
不覚にも自宅で私の帰りを待つ彼の事は忘れてしまっていた。
「わかった、ちゃんと奪い去るね。」
何処の少女漫画のセリフだ。でも彼が言うとそれさえ。
再び重なる唇、懐かしくも思える彼の香り。
少し危険な香りがした。それでも彼を。
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嗅覚さえも彼の物。【青】→←忠実な彼は私が居ないとダメになる。【黄】
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作者名：Rabiy. | 作成日時：2020年8月5日 2時
