PEERLESS BLUE

４９ U ページ49

「あ、あの、手…」

「…！あぁ、ごめんね」


"リュウジ"と名乗ったその男性は
にこりと笑って私の両手を離した。

こんなの、初めてだ。
初めてで、ドキドキする。

　
「きみ、染物師なの？」

「は、はい」

「へー、カッコいいね。
前の青色もすごい綺麗だったし
ブランの傷も、ほら、すっかり治ったよ
それに」



そう言葉を止めて、彼は
私の手元の布へと目を運んだ。



「その青も、すごい綺麗」



　
その言葉に偽りは感じない



それに

この人は何て素直に笑うんだろう？


　

「気味悪くないんですか？その…魔術師、みたいな」

「何で？こんな可愛い魔術師いないでしょ！」

　

可愛い、なんて。

本気じゃない戯れの言葉だとわかっていても
慣れない私の心はドキリとする。



　
「魔術師っていうか、そうだなー
可愛い魔法使いってかんじ？」

「魔法使い…」

「うん。
それで、魔法使いさん、名前は？」



"A"

そう言おうとしたとき
こちらに向かって幾つかの足音が聞こえた。

恐らく、馬
それも一頭ではない


　


「わ、やばい。俺行かないと」

　

　
そう言うとリュウジさんは
白馬ーブランの背に飛び乗った。

　


「またね、魔法使いちゃん」

「え、は、はい…」


　
慌ただしく木々の間を駆け抜けていったその後
程無くして
先ほどの数多の足音の正体が姿を現した。

　

沢山の馬と
屈強な身体に甲冑を纏った兵士たち。
　


「いないぞ」
「確かにこっちに来たはずなのだが」


そう言葉を交わす兵士たちは
戸惑う私を見つけて

厳しい視線をこちらへ向けた。
　



「娘！
ここで白馬に乗った男を見なかったか？」

　


白馬に乗った、男。

それは間違いなく
先ほどまでここにいたあの方のことに違いなかった。

だけど
答えてはいけない

そう、私の直感が警鐘を鳴らした。



「いえ…知りません…」


おずおずとそう答えると
兵士の一人は、チッと舌を鳴らした。

そして
私の手を見て
あからさまに表情を歪めた。

　

「魔術師か…気味の悪い」



そう言い捨てて
沢山の馬と兵士はまた踵を返し

あっという間にどこかへと行ってしまった。



魔術師
気味の悪い




嫌悪に満ちた言葉の武器

だけどそれは
不思議と心に突き刺さることはなかった。


と同時に
我が国の兵士に追われる立場の
あの白のお方を思い出す。

お尋ね者なのだろうか？


だとしても

私の心を包むような
言葉、素振りのあの方が

私には悪人には思えなかった。

続く  (更新停止中) お気に入り登録で更新通知を受け取ろう

←４８ U

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す