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15 U ページ15

「よし、出来た」


時刻はお昼を過ぎた頃。

朝から掛かりきりだった染色をようやく終えた私は
その製品を持って隣のお店へと急いでいた。

私のいる路地裏の作業場からぐるりと表へ回れば
そこは私の働く工場の製品を直販している大きなお店の入り口があり
そこにはこの辺りの仕立て屋が頻繁に出入りしている。


今日注文があったのも
よくうちに出入りしている仕立て屋からで

噂によれば貴族のみらず、宮廷への出入りも許されているやり手らしい。


なんて、そんなこと
私には関係のないことなんだけど。

とにかく私は
注文のあったこの生地を仕立て屋が来る前に運ばなければいけないのだ。






店へ到着すれば
もうすでに仕立て屋はおり、別の生地を物色していた。

生地を持った私を見つけた店員は
慌ててこちらへやってきて私から布を奪うと

にこにこした顔で別の生地を見ている仕立て屋に向き直った。




「どうもすみません、お客様、お待たせしました!
こちらが、ご注文の品でございます!」



同時にこちらへ向けられたのは
"早く向こうへいけ"という視線。


はいはい、こんな綺麗なお店に
私みたいな粗末な身なりの"魔術師"は邪魔だっていうんでしょ。



こんなことは慣れているし
とりあえず早く仕事場へ戻ろうとしたところで



私の足を止めたのは
思いもよらぬ仕立て屋の言葉だった。




「あぁ、ちょっとそこのお嬢さん」


「私……ですか?」



回りに妙齢の女性などいない。
お嬢さんなんて呼ばれたことなんかないけど

思ったより年若い仕立て屋の視線はこちらへまっすぐ向けられている。




「うん、これだ。
背丈や体型や雰囲気も歳もかなり近い」


「は……?」




意味のわからないことを言いながら
まじまじと私を見つめる仕立て屋は

一歩私に近付くと

驚くべき言葉を言いはなった。





「すまないけど
少しだけきみの身体を貸してはくれないだろうか?」


身体を

貸す?




「とある方のドレスを発注されたのだが
その方の採寸がとある事情で容易ではなくてね。

作っては見たものの、試着していただく時間がない。

いま、きみが試着してくれたら、手直しができる。
そうすれば完成するんだが……」





私の返事を聞く前に、仕立て屋がお付きの男に何やら指示をすると
その男があわてて持ってきたのは



美しい天鵞絨(ビロード)のドレスだった。





「お嬢さん、このドレスに
一度袖を通してくれないだろうか?」

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花恋(プロフ) - 更新再開お待ちしてます! (2020年7月24日 2時) (レス) id: 2b0127518b (このIDを非表示/違反報告)
amiryu(プロフ) - NEEさん やっと隆二さんの登場ですね〜 これからの展開が楽しみです!! (2018年11月15日 17時) (レス) id: 536b1e31eb (このIDを非表示/違反報告)
ぷにぷに(プロフ) - 新作待ってました!初めまして!ぷにぷにです!私は健ちゃん推しなので、早く健ちゃんに見つけて欲しいと願いながら読んでます!もぉ続きが楽しみです^ ^更新楽しみに待ってます! (2018年6月1日 8時) (レス) id: 60df6d6892 (このIDを非表示/違反報告)
ぐら(プロフ) - NEEさんのお話だいすきです (2018年2月9日 1時) (レス) id: 07d3f7974d (このIDを非表示/違反報告)
ぽちこ(プロフ) - 新作、ありがとうございます!王子が2人。。。これからの展開が楽しみです(●´ω`●) (2018年1月30日 21時) (レス) id: 83b994670a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:NEE | 作成日時:2018年1月28日 12時

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