Mr.PERFECT?

9―直人 ページ9

「直人くん？」
「え？あぁ、ごめん、行こっか」




隣の彼女が俺の腕を引く。

しまった。
思わず、ぼんやりしてた。


というか、その後ろ姿から目を離せなかった。




昔、大好きだった、モトカノ。

















別れたのは四年前。

俺の転勤をきっかけに、彼女から別れを告げられた。



嫌いになられたわけじゃない

多分


Aなりに悩んで悩んで
悩み抜いた答えだったのだと思うからこそ
俺は彼女の出した答えを受け入れた。



当時は拐ってしまえるほどの自信はなくて
彼女の言うとおりにしてあげるのが愛情だと思った。



離れて
初めて

あんなに辛く寂しいものだと思い知らされた。



だけど時間と共にそれはいい思い出となり
日本に帰ってきてすぐ
もともと知り合いだった一つ年上の彼女、亜弥子から交際を申し込まれ

その情熱に圧された俺は
彼女の想いを受け入れた。






その頃にはようやくAをモトカノとして
良い思い出に出来る。


そう思えるようになったのに。







今、まさか


こんなところで会うなんて。









「さっきの女の子、だれ？久しぶりに会ったみたいだったけど」




亜弥子の質問に
俺は思わず"モトカノ"という言葉を飲み込んだ。





「……昔なじみ、ってとこかな」

「ふぅん」




亜弥子からはそれ以上の追及はなくて
とりあえず安心する。


言っても良かったんだけど。




何となく後ろめたかったのかも。







久しぶりに会ったAは
すぐにわかるくらい変わっていなかったけど

少し大人びて
髪型も変わっていて




ドキドキした、なんて
隣にいる恋人に口が裂けても言えないから。





家に帰るところだって言ってたっけ？


あの辺に住んでるのかな。







まぁ、もう会うことはないだろうけど

ちょっと会えて嬉しかったってことは

隣の彼女には内緒にしておこう。








「直人くん、さっきから何か考え事してる？」





…おっと、まずい。






「そんなことないよ」







その言葉は
彼女と、それから俺自身に言い聞かせた。






ついAのことを考えてしまうなんてこと

そんなことないから。







俺の今の恋人は隣にいる亜弥子だから。







だから、Aのことは、今更。

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