Mr.PERFECT?

31―隆二 ページ31

「またあとでって、来ないじゃん！」




昼過ぎ、俺は着信の知らせのない携帯の画面に向かって
届くはずのない文句を言う。


昨日の夜
ホテルの前でAと岩田を見かけて

悩んでようやく今朝電話をして
出てくれて安心したのも束の間

あの慌て方
それから後ろでひそかに聞こえた声



家にいるとか
見え見えの嘘じゃん、馬鹿。


あれから気になってしょうがない
俺の気も知らないでさ、馬鹿。






「どーしたの、隆二？」


ソファーで悶々としてる俺の後ろから
細く長い腕が回される。


もう長く付き合っている歳上の恋人のイチハ。
同棲期間も長くもう恋人というよりは
家族のような姉のような存在だ。


「いや、同期がさ、ちょっとやばそうなんだよね」

「やばい？何が？」



何がって、どう説明したらいいのかわかんないけど。

少し言葉に詰まる俺を見て
まぁいいか、とイチハが俺の頭を撫でる。





「ね、隆二。
今日久しぶりに時間出来たから出掛けよっか」

「え、珍しいね」

「たまには彼氏サービスもしないとね。ほら、行くよ」





せっかちな恋人が俺を急かして
俺は最後にもう一度携帯の画面を見たけど


まだ着信はなくて。




はぁ、もう
知らないからな、俺。













「どこ行くの、今日」

「ん、ちょっとね、買い物。
クライアントへのプレゼント見繕ってほしくて」

「俺が？そういうのイチハの方がセンスいいじゃん」


イチハが俺に"見繕ってほしい"なんて珍しい。


歳上でしっかりしてて姉御肌で
仕事もバリバリしてるキャリアウーマンで

俺との恋人関係もどちらかというと
イチハが引っ張っていくのに
俺が着いていくようなものだった。


それでもここぞというときは俺を立ててくれる彼女に
何の不満もなくて

でも彼女が俺に頼むことなんてほとんどないのに

多分仕事関係のことで俺に頼ってくれるのは何だか
というかまあまあ嬉しい。



「クライアントの服とかブランドの趣味、隆二と似てるのよ。
背格好とかもね、だから」

「服、買うの？」

「ん、誕生日プレゼントだからねー」



クライアントに誕生日プレゼントなんていちいち渡すものなのかな？


まぁ俺とは違う業種だし
色々あるのかもしれない。



その引っ掛かりを頭から取り除きながら

アパートのエントランスを出たとき


ポケットの中で震えた気がしたけれど
俺はそれを確認することはしなかった。



今見たらきっと
そっちに意識が奪われてしまうから。

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