NEE ROOM【JSB】

岩田剛典【年上・豹変】 ページ10

「何を見たの？…Aちゃん？」



ジリジリと、私に近付く岩田さん。
その目はいつものにこやかに下がる目尻とは、違う。



「あの、な、何も…」

「怖がらないでよ、
そんな顔されたら、いじめたくなる」




あぁ、神様。

今私の目の前にいる御方は……誰？









"営業部の王子様"

そう女子社員から呼ばれていた岩田さんは
皆に優しくてさわやかで仕事も出来て
皆の憧れで

だけど誰一人として彼女の座を狙うことはなかったのは


わが社の社長のお嬢さんと結婚を前提にお付き合いしていて
次期社長、なんて言われているような人だったからで。


それはもう私たちみたいな一般人が束になってかかったところで太刀打ち出来ないくらいに
仲睦まじい理想のカップルだったわけで。





…そうだったはずなのに。





たまたま通りがかった繁華街。
急いで通りぬけようとしたところで


私はその光景に目を疑った。


モデルのような美女を侍らす
これまた美しい男性の顔を、私は知っていた。




「い、岩田さん…！？」



あぁ、バカな私。

どうして知らんぷり出来なかったんだろう。







恋人を何よりも大切にする
品行方正でフェミニストで
二股をかけられたと泣く女子社員に、
そんな男はだめだと、
俺ならこの女性と決めたらずっと添い遂げると

そんなことを言って
さすがは王子様だと
女子社員の心を鷲掴みにしていたのに。




「剛典、今夜は一緒にいてくれる？」



そう言ってしなだれかかる女は
勿論、社長のお嬢さんではない。



「…予定変更。帰って」

「え？剛典！？」




そう冷たく言い放った岩田さんはこちらへ来て
そして私に凄んで見せたんだ。



"何を見たの？"

"そんな顔されたら、いじめたくなる"



「あ、あの…」

「誰にも言わないよな？」




口調までいつもと違って冷たくて
ニヤリと笑う顔にいつもの優しさはない。



「俺の秘密、守れる？」


ジリジリと近付く岩田さんに私は頷くしか出来ない。

そして、いつもと違う意地悪な顔で
いつもと違う低い声で

岩田さんは私の耳元で


「イイコだね」


そう言って

私にキスをした。










何が起こったの？








訳がわからぬまま、されるがままの私から
すぐに離れた岩田さんは

「これでお前も共犯」

そう言って
夜の町へと消えていった。

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