NEE ROOM【JSB】

登坂広臣【禁断・既婚】 ページ33

「え、Aちゃん、もう帰んの」
「終電あるから」
「いーじゃん…朝まで一緒にいよ」




バーカウンターのハイチェアから下りて
鞄を手にかけながら言った私に

隣の男は拗ねたようにおねだりをする。


美しい横顔を持つこいつは
手の甲まであるニットから指輪を覗かせて
まるで息をするみたいに私のことを誘うけれど

この指輪は、私のものではない。





「奥さんに怒られるよ」
「今日友達と会うから実家帰るって言ってたから大丈夫」
「…最低。チャラい」





出会いは人数合わせで参加した合コン。
既婚者だと明かしてきていたこいつも人数合わせで
でも一番女子からモテてて

彼氏なんて面倒だしいらないというスタンスの私を
"後腐れなさそう"だからと誘ってきて

私も一晩のつもりで応じたはいいけど
それ以来何度も呼び出されるようになって。



別に私はこいつに興味なんてないけど
まぁ暇だし
素直に呼び出しに応じていることに
深い意味なんかない、し。




「あの人はねー、俺じゃなくて俺の経済力が好きなんですよー」




そんな風に奥さんのことをこぼすこいつの横顔が少し寂しそうに見えるなんて
私もどうかしてる。




「Aちゃんはちゃんと俺のこと見てくれるから好きだよ？」

「は？私はあなたみたいなチャラい人はきらい」




ひどいしかめっ面で言ってやったつもりなのに
それを聞いてこいつはクスクス笑い出す。

……別に、笑わせようと言ったつもりはないんだけど。



「それそれ。
見た目じゃなくて俺の内面見て、やなとこわかっててさ、
きらいとかいうわりに、呼んだらきてくれるとことか好き」



流し目でこちらを見て
座ってよ、と私を促す。



あぁ、もう
そういうとこがきらいなのよ。






「やっぱり優しいな、Aちゃん」


座り直した私のカウンターの上の手に
彼の手が重なる。



「俺、もっと早くAちゃんに出会ってたかったな」





そんな陳腐な言葉で
いちいち喜んだりしてやるものか。

こいつはルール違反をおかしている。
どんなに顔が良かろうが
声が良かろうが
アッチの相性が良かろうが

もう関わってはいけないし
こんな男に特別な想いなんて持つわけない。

持っては、いけない。




だけど





「今夜は一緒にいよ、Aちゃん」




甘い声が麻薬みたいに頭を支配する。


こんなズルくて悪い男に
絶対にハマったりしない。
これきりにするから。



もうお願いを聞くのは
今夜を最後にするんだから。

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