NEE ROOM【JSB】

episode3 密偵【NT】 ページ22

「ここにいたんですか、姫」


窓の下、こちらを見上げたその人は私の姿を捉えると
あっという間に窓のすぐ傍の大木の枝へと飛び乗った。

そして、伸ばされる逞しい腕。



「帰らないと。
城じゅうの兵士があなたを捜しています」


そういって彼は私にニッと笑ってみせた。



人間離れした運動神経
だけど人当たりの良いその風貌
そして奇抜で最先端のファッション


彼は王族御抱えの仕立屋で
城内に出入りを許された数少ない平民のひとりだ。


……表向きは。






「こんなところにいるの、兵士に見つかったら
ナオトがまずいんじゃないの？」

私の問いに、彼…ナオトは飄々と答えた。

「そんなヘマ、俺がすると思いますか？姫君」

「それは…」

「しっ……静かに」




伸ばされた手は私の手を掴み
引き寄せられいつの間にか私はナオトの腕の中へ。

大人二人が乗ってもびくともしないその大樹の枝の上
私を抱き抱え動きを止めたナオト

大きな葉が私とナオトの姿を隠して


そしてその下には
私を捜しに来たであろう王国の兵士たちが集まってきている。





「これは、姫様の馬！」
「お近くにおられるだろう！探せ！」




散り散りになる兵士たち
その隙を見たナオトは私を抱えたまま

隣の木へと移り
そして私を下ろした。






「ここからこっそり自室へお帰りください。
ここまで来ていたのを知られたらまたお叱りをうけるだろうし

それよりも城内を散歩していただけと上手く言い逃れされたほうがいいかと」




確かに
現行犯じゃなきゃ叱られようがないし。

口うるさいのはお父様だけではないから。





「ありがとう、さすがは私のお抱えの密偵ね」

「恐れ入ります」





ナオトは私が雇った私の影。

不穏な隣国の様子をうかがわせたり
私がお忍びで城下へ出る際の用心棒をしてもらったり


国王も近衛隊も誰も知らない私だけの密偵。






こういうときにすぐ来てくれたり
フォローしてくれるナオト


だから今日ここで会ったことも
特に気になどしなかった。





この塔で出会った二人は恋に落ちる。


ナオトに恋をするなんて

そしてそれが悲しい結末を迎えるなんて

私は予想だにしていなかったから。

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