Acaciaー秘密の恋ー

33―剛典 ページ33

俺は他人の心の機微には
わりと長けている方だと思う。




だからこそ

自らの本心は隠して偽ることなど
何でもないことだ。



そしてそれに慣れていない人間の
本心を見ることも。







あいつのことが、気になってるんだろ？








エサは蒔いた。





俺のシナリオとしては




燻っていたヒロインのささやかな恋心は
二人きりのシチュエーションで燃え上がる。


二人を遮るものは不在で
二人の愛はより、深いところへ。






うん、美談だよねー。


でも



俺がそれに協力しないといけないなんて決まりはないよね？


協力は出来ないよ、ごめんね、A。




俺を裏切ったことへの

怯えた顔での謝罪と後悔
見せてもらおうかな？





そう思って

この建物の一番奥の部屋へ向かい
扉を開けると





「剛典さまっ…」


びしょ濡れの髪にバスローブ姿のAがお出迎え。




「おかえりなさいませ！
まさかお戻りになるなんて思わず
…シャワーを浴びていて、こんな格好で申し訳ありません！」





……ふーん？


"シャワーをあびていた"…ねぇ？






「…封筒は渡せた？」


「はい！
それで、私のお仕事は終わったので寛ごうとシャワーを」



へぇ…

嘘をついているようには見えない。



もしこれが嘘なら
相当の覚悟で言ってるんだろうなぁ？




「そう。
いいタイミングだね…ちょうどソノ(・・)気だったから」



そう言って俺はAを引き寄せると
バスローブの隙間から手を差し込んだ。



ビクッと身体を反応させるA。






嘘は付けても
心臓の鼓動までは隠せないよね？


スッゴいドキドキしてるけど
これって嘘をついていることへの動揺じゃないよね？





「A」


「はい…」





「裏切りは許さないよ？」


今日のところは"合格"にしてあげようかな？



俺に痕跡を残さないようにした
努力得点多めの
オマケの合格だけど




少しだけ俺の言葉で変わった顔色が
少し怯えたような表情が

ヨカッタから、今日は許してあげる。




石鹸の香りのする
まだ風呂上がりの彼女をベッドの上に組敷く。



表面は暖かい肌の、芯が何故か冷えていること

お湯のシャワーのはずなのに
髪が冷たいこと



まるで"水"を浴びたみたいで

そこがちょっと解せないけど



まぁ今日は許してあげるよ。




嘘を覚悟した女は

美しいから。




ね、A？







…俺をがっかりさせんなよ？

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