Acaciaー秘密の恋ー

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無言の時間が過ぎていった。



この空間に存在する音は

ガーゼを袋から取り出す音、

包帯をほどく音、巻く音


その一連の動きにより軋むベッドの音。


　

傷の手当について
意外にも彼は私に一任し
そのまま大人しくしていた。

　
…もっと嫌がられるかと思った。


　

彼にとって私の印象は良くはないはず。


　
私は彼の主の"愛人"で



そしてその主の命令により
私のこの身体で彼を陥れようとしたと思っているはずだから

　

今だって警戒されても不思議はないのに。


　
ただ大人しく表情も変えずベッドに座ったままの彼の傍

私はそこに立ったまま
ようやく出血の落ち着きだした肩をガーゼで抑え
ゆっくりと包帯で巻いていった。
　


　

「出来た」


「…ん、ありがとう」

　



意外な彼の礼の言葉に
私は目を丸くし言葉を詰まらせた。

その様子を見たオミは
怪訝な顔で下から私を覗きこむ。





「…なんだよ、その顔」

　
「あ……いえ、まさかお礼を言われるなんて思わなかったから」



そう答えると
オミはフッとその顔を少しだけ緩めた。


　

「礼ぐらい言える」



　
あぁ、この人


笑うと優しい顔になる。



　
一瞬見とれてしまった自分を慌てて律して

私は散らばった治療用具を片付け始めた。
　



シャツを羽織る彼を横目で捉えながら


戻らなきゃ


そう思う反面


もっと彼を知りたいと、
私の心が叫び出す。






「大変な…仕事なのね？
そんな怪我を負うなんて」
　


雑談なら、応じてくれるかも。

私は努めてゆっくりと
片付ける手を動かす。




　
「まぁ…楽じゃねぇけど」




答えてくれた。

だけど

次の言葉が続かない私に
意外にも話しかけてくれたのは彼の方からだった。




「あんたほどじゃないだろ？A」


「え？」



思わず彼の顔を見た。

　

そう言った彼の顔は
切なそうに私を見つめていた。





「来る日も来る日も部屋に閉じ込められて
狭すぎる世界で生きるしかないんだよな」




　
それは私を憐れんでいるの？


私のことは娼婦と同じだと
軽蔑の目で見ているのだと思っていた。



だけど

今の視線はそんなんじゃなくて。




優しい声色に
同情の言葉も素直に身にしみる気がした。




　
「包帯、助かった」


ポン、とまた大きな手が私の頭に触れた。

…あの中庭のときのように。


　

「また…来て、中庭」


思わずそう告げていた。


そんな私にオミは


少し困ったように、笑いかけてくれた。

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