126 ページ30
あれから。
あの鍵を返した日から
私が取り戻したのは平凡な日常だった。
もとに戻った、それだけなのに
何故か私の足はあの駅前から遠退いた。
まるで昔の恋人との想い出の地を避けるみたいに。
刺激的なあの日々も
過ぎてしまえばただの夢のよう。
だけど
まだうっすら残るあのマスカレードの紅い痕は
少しだけ私の心を切なくする。
これ以上はいけない。
この気持ちが膨らんでいくのを
私は律した。
いつの間にか割りきった関係から
特別な想いを抱くようになったことは
知られてはならないから。
「俺、Aさんのことずっと気になってて、恋人とかいないなら、俺のこと考えてくれませんか？」
おぉ。
久しぶりの感覚。
健二郎くんと会うのもなんとなく足が遠退いていた最近
会社の隣の部署の二つ後輩の男の子からよく食事に誘われていた。
なんとなく、彼の気持ちには気付いていた。
彼のことは好きでも嫌いでもない。
だけど誘いを断らなかった。
気をまぎらわせなきゃやってられないと
私の心が叫んでいたから。
「ありがとう」
どうしようかな。
付き合ったら別れるときややこしい。
一度寝たら会社で会ったとき気まずい。
そう思っていると
ふわり
スパイシーな香りが、私の鼻腔をくすぐった。
「えっ…！？」
思わず振り向く。
ここはあの駅からは離れているはず…。
「どうかしました？」
「あ、こ、香水が…」
「香水？」
慌てる私の目に飛び込んできたのはあの男
…ではなく、アロマディフューザーだった。
「あぁ、すみません。
アロマオイル切らしちゃって、ほんの少し香水いれたんです。邪道ですけど」
店員がそう、声をかけてくる。
「…エゴイストプラチナム…」
「あ、お客さん、鼻いいですねー」
忘れるわけない。
私は何度もこの香りに抱かれて
この香りを求めてきたのだから。
「…Aさん？だ、大丈夫っすか？」
ワンナイトに本気になるなんて馬鹿みたい。
あの男のために
この私が涙を流すなんてあり得ない。
身体を重ねる度に
心も奪われていたなんて
本当に、馬鹿だ、私。
住む世界の違う男に恋をするなんて。
心配そうに私の肩を抱くこの後輩に
いっそこの気持ちが全部移行できたら
私は楽でいられるのに。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2334人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「登坂広臣」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひろみ - 私も臣大好きなので、キュンキュンしながら読みました。どうなるの？とドキドキで、途中でやめる事ができず、夜中までかかって一気に読ませて頂きました。 (2017年4月2日 2時) (
レス) id: e9c7ef6696 (このIDを非表示/違反報告)
苺(プロフ) - 3~しかないんですかね??間違ってたらごめんなさい (2017年1月8日 15時) (レス) id: 811aaed8b2 (このIDを非表示/違反報告)
あんな(プロフ) - 毎回毎回キュンキュンしながら見てます！！ (2016年9月19日 0時) (レス) id: 16f1420843 (このIDを非表示/違反報告)
maimai(プロフ) - 続きが気になりすぎます(*^^*)！NEEさんのお話大好きです＼(^^)／NEEさんのペースで大丈夫ですので、無理せず更新お待ちしております(*^^*)！ (2016年5月22日 10時) (レス) id: 31f7cf4807 (このIDを非表示/違反報告)
maimai(プロフ) - あとさんと同じく！隆二くんに触れられてるところを見て、臣にいろいろ大切なことに気づいて欲しいです(>_<) (2016年5月22日 10時) (レス) id: 31f7cf4807 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：NEE
| 作成日時：2016年4月14日 22時
