佰肆拾捌 ページ6
五条side
A「悟…少し、痩せた?
それに、酷い隈………大丈夫…?」
小さくて、細くて、可憐な手が
頬に触れる。
Aは今の僕に
あの頃の傑を重ねているんだろう。
目は合っているはずなのに
その視線が交わることはない。
Aが見ているのは、僕じゃない。
遠い昔の、失われた記憶の中にいる傑だ。
「………ん?
………ちょっと待って。
今、何て言った?」
A「………?
………隈、大丈夫?」
「その前。」
A「………少し、痩せた?」
「もっと前。」
A「………悟?」
____“悟”
五条さん、じゃなくて、悟。
その呼び方はまるで…
十年前の、Aみたいだ。
冷静になってみると
纏う雰囲気や、見せる言動すべてが
あの頃のAそのものだ。
まさか…
「………記憶、戻ったの?」
A「………」
Aは無言で頷いて
問いを肯定した。
それはもう、気が付かないうちに
除外していた可能性だった。
だって僕は、Aが息をして
動いて、目を見て、話してくれるだけで
十分すぎるくらい幸せだったから。
とっくの昔に
再会は済んでいるはずなのに
もう一度、また会えたような気がした。
幸せを超越した感情に
見合う言葉なんてあるはずもない。
強く抱きしめ直して
それを全力で表現すると
Aは遠慮気味に
弱い力で僕の服を握った。
あぁ、そのいじらしさが
堪らなく愛しい。
もう絶対に、離したくない。
離れたくない。
何があっても、離さない。
たとえAが、それを望まないとしても。
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作者名:るびー | 作成日時:2024年2月15日 9時