佰捌拾伍 ページ44
伏黒side
…あの柔らかな感触が
数時間経った今でも消えない。
おかげで一睡もできなかった上に
今日はずっと上の空で
虎杖や釘崎に、さてはAと
何かあったなと勘繰られる始末だった。
『ありがとう…助かった。』
あの時、Aはそう言って
余韻で動けずにいた俺を置いて
任務に向かってしまった。
そしてそのまま
まだ帰ってきてはいないようだった。
会いたいような、気まずいような…
でもやっぱり、会いたいような。
冷静になると押し寄せてくる罪悪感と
冷静になっても消えない高揚感が
心臓の拍動をかき乱す。
A「…伏黒くん………っ」
その乱れたリズムが治らないうちに
Aは現れた。
やって来た方向からして
医務室にいたんだろう。
少し良くなった顔色を見て
安堵する。
…だがそんなものは
ふとAの唇に向けた視界に入ってきた
首元に残された噛み跡のせいで
一瞬にして消える。
怪我と言っても差し支えないほど
濃くはっきりと付けられた歯形は
俺のマーキングをかき消すように
その存在を強く主張している。
…俺の宣戦布告に対する
五条先生からの返事だった。
A「あの………ごめんなさい。」
そんな冷戦が起こっているとは
つゆ知らず
その火種であるAは
深々と頭を下げる。
甘えを知らず
他人に頼る発想すらないAのことだ。
心底申し訳なさそうなその表情と
その謝罪が意味していることは
何となく分かった。
だからこそ俺は、あの時
嬉しかったんだ。
Aに、
頼ってもらえたような気がして。
「…呪力のことなら、気にするな。」
そう言うと、Aは驚いたように
顔を上げた。
どうやら、俺の予想は的中したらしい。
だとすれば尚更、むしろ俺の方が
極限状態のAを助けるふりをして
己の欲を満たそうとしたことを
謝りたいくらいだった。
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作者名:るびー | 作成日時:2024年2月15日 9時