佰漆拾陸 ページ35
伏黒side
A「………いいの…?」
俺と同じく、Aも
手段を選んでいる場合ではなかった。
言葉では最終確認をしながらも
俺の返事を聞く前に
Aの小さな手が、頬に触れる。
…いや、そうか。ちょっと待て。
呪力を奪わせるためには
俺の身体の一部を
Aに渡す必要がある。
そして、その最も簡単な方法は
体液を介すること。
体液の中でも特に、痛みを伴わず
道具も必要とせず
すぐに実行できるのは…
唾液。
つまり…キスをすること。
しかも、深いほうの。
「………っ…」
虚ろな瞳と、陶器のような肌と
柔らかそうな唇が、近づいてくる。
これから数秒後に起こることを
想像するだけで
身体中の血の巡りがよくなる。
何度も、何度も
触れてみたいと願ったものが
今は目の前にある。
千載一遇の、またとないチャンスだ。
こんなにも邪な気持ちを
疑う発想すらなく
善意だと受け取ってしまう
Aの純粋さ。
それを穢す罪悪感を上回るのは
好きな人への、欲深い情。
戸惑いも、遠慮も、最初だけだ。
一度触れてしまえば
もっと欲しくなる。
「A…っ…」
後頭部を引き寄せて
本来の目的なんて
どうでも良くなるくらいに
貪った。
好きで、好きで………
どうしようもないこの気持ちを
体液ごと飲み込ませて
身体に刻み込みたい。
苦しそうな呼吸に
見て見ぬ振りをして
互いの境界線を無くすように
舌を溶け合わせる。
そして、どさくさに紛れて
首筋に吸い付き、跡を残した。
俺の知る限り、Aのここに
赤いマーキングを見たことはない。
つまり、恐らく先生は
まだ触れたことがない領域。
俺から先生への、宣戦布告だ。
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作者名:るびー | 作成日時:2024年2月15日 9時