佰漆拾伍 ページ34
伏黒side
こんな夜遅くに女子寮に入ることも
好きな人の部屋のドアを
無断で開けることも躊躇ったが
そんなことを言っている場合じゃないと
自分に言い聞かせる。
夢現状態のAを
そっとベッドに寝かせ
控えめに辺りを見渡す。
案の定、Aのスマホは
その役割を果たす余地もなく
無造作に置き去りにされていた。
そして、二つ並んだマグカップに
山盛りの角砂糖、甘いお菓子…。
至るところにある、五条先生の気配。
……仮にも教師が、生徒の部屋に
マーキングしてんじゃねぇよ。
AもAで、大の大人の男を
簡単に部屋に居座らせるんじゃねぇよ。
なんて、勝手に部屋に入った自分を
棚に上げて、恨み言を心に吐いても
当の本人はスヤスヤと眠るだけだ。
長いまつ毛が白い肌に影を落とし
目元にできた隈を強調している。
…こんな状態で、呪霊を喰って
呪力だけは回復させて
また任務に向かうつもりなのか?
どう考えても、身体が持たない。
一度、家入さんに診てもらった方が
いいかもしれないな。
こんな時間に起きているのか
起きていたとして
素面かどうかも分からないが…
訪ねるだけ、訪ねてみるか。
A「…行かないと。」
だが、再びAを
持ち上げようとした時
Aは徐に起き上がり
かけたばかりの布団を剥いだ。
そして、驚いてその動作を
見ていることしか
できなかった俺のことなど
視界に入っていないかのように
通り過ぎようとする。
「待てって…っ!」
咄嗟に、前に出る右足と呼応して
後ろに引かれた左腕を掴む。
こんな状態で行けば
たとえ低級だろうが
喰われるのはAの方だ。
……… 一か月前の
青白い肌にこびりついた赤黒い血と
石のように冷たくなった身体を
思い出す。
…あと一歩遅ければ
Aを永遠に
失っていたかもしれないという恐怖。
………もう二度と
あんな思いはしたくない。
何が何でも、このままAを
放っておくわけにはいかない。
「…呪力なら、俺のを奪えばいい。」
その一心で、気が付けば
そんな提案をしていた。
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作者名:るびー | 作成日時:2024年2月15日 9時