愛という名の呪いを【五条悟】肆 (ページ32)

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佰漆拾参ページ32

伏黒side

Aが特級の位を与えられたと
風の噂で聞いた。

だが、Aの
『皇』という名字に隠された
秘密を知る俺たちは

その等級が
名誉あるものではないことを
誰もが悟っていた。

事実、Aは
病み上がりにも関わらず

生徒では有り得ない頻度で
任務に駆り出されている。

おかげでここ数日
Aの姿を見た奴はいない。

せめて顔が見たくて
声が聞きたくて

朝早くに起きてみたり

夜遅くまで
共有スペースで過ごしたりしたが
無駄だった。

寮で部屋が隣の釘崎でさえ
Aが帰ってきた気配はないと
言っている始末。

五条先生なら
何か知っていると思ったが

電話でもメールでも
曖昧な答えしか返ってこない。

それに先生も先生で忙しいらしく
直接問い質そうにも
タイミングがない。

余計な時には現れまくるくせに
肝心な時には高専にすら
居ねぇのかよ…。

「くそ…っ…」

別に先生が悪いわけではないが
つい頭に浮かんだあのニヤけ面に
イラっとする。

気を紛らわせようと
意味もなくスマホの画面を見ると
もう明日が今日になっていた。

A宛てに送信した
メッセージの返信を
知らせる通知は、まだない。

そもそもAは
携帯を見るどころか
持ち歩く習慣もないような人だ。

部屋に置きっぱなしの可能性も
多いにある。

風呂上がりの濡れた髪を
乱雑にタオルで乾かしながら
深い夜に静まり返る寮の廊下を歩く。

共有スペースを通る時はいつも
中央に置かれたソファを
確認してしまう。

そこに、
Aが座っていることを期待して。

そんなに都合よく
何度も出会えるわけじゃないと
分かっているのに。

特徴的な深い赤髪が見えない時点で
そこにAは居ないことが
確定する。

………だが、一時間だけ
ここで待ってみよう。

今日こそは
会えるかもしれない。

またそうやって、懲りずに
淡い期待をしてしまう自分に呆れる。

だが、ソファの肘掛けの横を通って
正面に回った時

俺は過去の自分の判断を
心から称賛した。

そこには、
横向きになって身体を丸め
すやすやと眠る、Aが居たから。