佰陸拾玖 ページ28
Aside
悟の、不器用で、真っ直ぐなところが
昔から好きだった。
荒っぽい口調で暴言を吐いても
私は、その瞳の奥にある
揺るがない優しさを知っている。
だから、悟の目が語ることなら
何でも信じられた。
それは、今でも変わらない。
どうして私は、そんなことすら
忘れてしまっていたんだろう。
悟は、再会したあの時からずっと
記憶の中にあるのと変わらない
澄んだ瞳のままだったのに。
“逃げるな。向き合ってやれ。”
硝子が言っていた言葉の意味を
ようやく理解する。
逃げて、目を逸らして
見なかったことにしていた。
悟は私を許さないと思い込んで
だから悟の傍には居られない、
居ていいわけがないと決めつけて
悟から離れることで
罪悪感から逃れようとしていた。
悟の瞳は、一度だって私を
呪ったことはなかったのに。
それどころか
居場所を探して、迎えに来て
高専に入学させてくれたのに。
『この力が役に立つものだと
知ってしまった以上
私は、人の役に立たずには
生きていられません』
…………馬鹿だな、私。
悟からだけじゃなくて
自分の言葉からも
責任からも、運命からも
逃れようとするなんて。
結局のところ、
私は怖かっただけなのかもしれない。
悟に
『もうお前なんて必要ない』と
言われる日がくることが。
そんな日が来ないことくらい
瞳を見れば、分かったはずなのに。
結局、私の答えなんて聞かずに
勝手に唇を重ねた悟の心は
まだ全然分からないけど
分かるまで、
悟のことを傍で見ていたい。
その言動の根本にあるのが
一体どんな感情なのか
知りたいから。
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作者名:るびー | 作成日時:2024年2月15日 9時