佰陸拾壱 ページ20
五条side
『大人げない』
なんて言葉を考えた奴は
きっと、何かを本気で
欲しいと思ったことがないか
欲しいと願ったものは
何でも手に入れてきた人なんだろうね。
だって、『大人だから』
なんて理由で抑えられるなら
それはただの理想や妄想であって
欲望とは呼ばない。
僕は、Aからの
唯一無二の愛が欲しい。
それは、ガキだった高専の頃から
いい歳になった今でも
ずっと変わらない。
大人になったから、なんて理由で
消えるような想いじゃない。
Aを愛したい。
Aに愛されたい。
相思相愛と呼べば聞こえのいい
愛の縛り。
それを同じように欲しがるのなら
相手が恵だって、容赦はしない。
部屋の壁にAを押し付けて
上書きするように、頬を手で包み込む。
「…分かる?
これが、僕の手。」
形を、大きさを、温度を
沁み込ませるように
右手で頬を撫でて
左手で恋人繋ぎをする。
「ちゃんと覚えて。
この手以外は、触らせちゃダメだよ。」
あーあ。
こんなことになるなら
記憶なんて
無くしたままでよかったのかも。
それなら、Aに触れられるのは
ずっと、僕一人だけだったのに。
これからは恵も、悠仁も、野薔薇も
パンダも、棘も、真希も
みんなみんな、Aに触れられる。
それを想像しただけで、
ここら一帯を
更地にしてしまいそうなくらい
腹が立つ。
A「…………覚えてるよ。」
そんな、空想の怒りを鎮めるように
Aは静かに呟いた。
耳を介さずに、直接脳に響くような
心地のいい声。
A「目を瞑っていても、分かる。」
頬に添えた右手より
一回り以上小さい左手を重ねて
繋いだ左手を、右手で強く握り返す。
そして、その感覚を深く味わうように
ゆっくりと目を閉じた。
「…っ………」
その言葉と、その仕草の
色っぽさといったら、もう…。
唇を奪うだけじゃ
済まされないほどの
罪深い誘惑だ。
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作者名:るびー | 作成日時:2024年2月15日 9時