808時間目 ページ46
Aside
あと十分も経たないうちに
お母さんは私の傍からいなくなる。
でも、その悲しみに暮れている暇もない。
死神の赤黒く濁った触手と
お母さんの瞳の色をした触手が
同時に私に向けられる。
唯一の家族から向けられる殺意は
嫌でも過去を思い出させた。
…私はまた、この殺意に殺されるのか。
十年ほど前
幼い私を海に突き落としたのと、同じ手で。
少し前の私なら
ここで黙って殺されていただろう。
それが私の運命だ、なんて
綺麗事を平然と言って。
でも、今はそうは思わない。
……あと、十分。
それなら、私の命か、お母さんの命…
どちらかが尽きるまで、傍にいよう。
それが、私にできる
最初で最後の親孝行だ。
……お母さん。
巻きこんでごめんね。
私はあなたから、ずっと逃げていた。
……でももう、目を逸らさない。
今更かもしれないけれど
あなたと、ちゃんと向き合いたい。
対触手生物ナイフを両手に構え
前後から迫る攻撃に備える。
「…っ」
まずはお母さんの触手を避け
それに合わせて死神の攻撃にも対処する。
…でも、さすがはマッハ40の怪物。
ただの人間の私には
頬を切られた。
死神の憎しみに満ちた攻撃は読みやすいが
読めたところで避けられなければ意味がない。
このままでは、お母さんと向き合うことも
殺せんせーの回復の時間稼ぎをすることもできずに
殺されてしまいそうだった。
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作者名：るびー | 作成日時：2023年1月14日 16時
