mission 50 ページ50
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「思う存分泣け。ここはそういう所だ」
それきり、一言も口を利かず、俺の隣にいた。
これが添い寝、とでも言うのだろうか。
俺が泣き止んでも、頭を撫でてあやすようにしただけだった。
「薮は、どうしてここにいるの」
「仕事だから」
「そうじゃなくて。どうしてこの仕事を始めたのかって話」
薮はうーん、と唸り、俺の頬を引っ張りながら言った。
「家出した日、店員がここに泊めてくれたから、かな」
「家出？……っおい、いてぇよ」
薮の手を引き剥がすと、今度は耳朶を引っ張り始める。
「そ。家出」
「薮はそういうこと、しないと思ってた」
「光みたいな奴らはしない。俺みたいな奴だからするだけだ」
もう手を剥がすのも諦め、薮の話に耳を傾けた。
こいつの手癖は面倒なことを知った。
「……俺と薮は、どう違うの」
「一口には言えない。けど、伊野尾がいる。お前には」
「薮には？家族いねぇの」
冗談交じりで聞いたんだ。
俺はいつも、冗談でしか物事と向き合えない。
「殺した。死ぬ前に」
無理して笑っていたのか、幸せだからだったのか、未だにその理由はわからないままだ。
本当に殺したのか、自分の中から抹殺したって意味なのかも、定かじゃない。
……でも。
「前にさ、薮、殺される前に死のうとしたって、言ってたよな」
よく覚えてるな、なんて微笑むけど、俺はそれが許せないんだよ。
「死のうとしたのに、殺したのか」
「……嘘だって。それくらい分かれ」
「嘘を吐いたときの顔じゃなかった」
嘘の割には、顔が真面目すぎる。
そう言えば、今度は鼻で笑われた。
「嘘だよ。……全部、嘘」
早く寝よう。
まだ言いたいことはあって、聞きたいことも何個もあったのに。
全部濁されたし。
それに……
「ちょっ、離せ！」
「こうでもしねぇとまたこんな夜中に出歩くかもしれねぇだろ」
「今日はもうしねぇよ！」
「でも当分は寝ないだろ？」
「だからって……」
……俺を抱き枕にすんのはねぇよ。
薮に背後から抱きつかれて、動こうにも動けないこの状況。
なんだこれ。
てかお前っ、一応生徒にやってるってこと分かってるか！？
「ほら、これなら二人とも安心して眠れる」
「どこがだよ」
「もうなににも、怯えなくていいからな」
「っ……」
＿＿こんな関係で、ただ一つ分かったこととすれば、
こいつが最近、俺に笑うようになったってことだ。
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作者名：柊 | 作成日時：2018年10月12日 19時
