mission 5 ページ5
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「で、学校はどうだったの」
ネコを外に追い出し、平和な時間が流れ出したところでコーヒーを注いだ。
窓を開けてるからかまだ寒い。熱々のコーヒーは仕事の合間にでも丁度いいだろう。
伊野ちゃんの部屋に入り、開いているパソコンの傍にゆっくり置いた。
「まぁまぁ」
「別の回答」
「大ちゃんが遅れてきた」
「あぁやっぱりねぇ……って、違う違う！」
「……はぁ。新しい先生が担任になった」
仕方なく思い出したくもなかったあいつのことを口に出した。
どうせ伊野ちゃんは授業参観とか学校の行事には来ないから、どんな愚痴を言っても問題はないだろうけど
俺なりに嫌な予感がしたんだ。
「へぇ……そのせんせ、名前は？」
「薮だよ。薮宏太」
「ふーん」
そっちから聞いたのに興味無さげな返事が返ってきた。
「なんだよ」
「いや？めんどくさそうな名前だなぁって」
「伊野ちゃんもそう思うんだ？」
まさか名前で意気投合するなんて思ってもみなかった。
こういうところ、似てるのが皮肉ってやつなのか。
「うま。光ありがと」
「あぁ、まぁ」
薮宏太。
聞いたことある声なのはきっと、
昨夜の屋上の男だからだ。
「そうだ。昨日の夜どこ行ってたの？」
「ぶらぶらしてた」
「ほんとに？遅くなったら出歩くのはよくないよ。どこで何があるか分からないんだから」
「はいよ。気を付ける」
伊野ちゃんにはまだ言っていない。
毎週のように、都内の屋上の柵よりも外側に座って"足をぶらぶら"させていることなんて。
深夜に家を出るから熟睡しているのは見るし、なによりこの人は、そんな学生の気紛れなど気にしない。
だから時々思うんだ。
俺が死んだら、この人は悲しんでくれるのかな、なんて。
「ぼーっとしてる。そんなにその薮ってせんせが嫌なわけ？」
「大っ嫌いだ」
「どうしてよ。確かに名前はいけ好かないけどさ」
今日俺を見ていた目付きは、メガネ越しでも少なからず恐怖を感じた。
あれが昨夜の男なんだと思うと、弱味を握られた悔しさで胸がキリキリする。
「ほーら。昼寝してくる？１時過ぎくらいにご飯にするから」
「……うん。ごめん」
「おやすみ」
腹は空いていなかったし、遅くまで起きていたからかそれなりに眠かった。
始業式でよく寝ずに耐えたなと自分で自分が誇らしい。
空気をうまく読んでくれる伊野ちゃんには、どうしても頭が上がらないな。
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作者名：柊 | 作成日時：2018年10月12日 19時
