mission 37 ページ37
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いよいよやってきた、面談の日。
大ちゃんは2日前に終えていて、俺は最終日の最後の番だった。
伊野ちゃんがどこでもいいって言ったら、満場一致で最後の最後に選ばれてしまったのだ。
「光くん、今から1時間半は待つんだね」
「大ちゃんも一緒に残る?」
「……遠慮しときまーす」
「けち」
「光くんも残ってくれなかったくせに」
そいじゃ、なんて手を挙げて教室を出て行くから、俺はどうしようもなくなって机に突っ伏していた。
「おい八乙女。これから面談だから一旦廊下出ろ」
「……はいはい」
「はいは一回」
「……はぁい」
携帯の電源をオンにして、廊下で一人弄ってみる。
校則では禁止されているけれど、反抗してみたくなるのがルールってもの。
前に聞いたら高木もやってたみたいだし、一回くらいいいよね。
「はい没収」
パッと上に飛んで行った携帯を追うと、1組目が終わった薮にまんまと捕まっていた。
次の組はもう教室にいるらしい。
「あ、携帯」
「弄るなら弄る。ボーッとするなら仕舞え」
「弄っていいの?」
「そうは言ってないだろ。保護者は」
「まだ」
「親」と聞かなかった薮に、なぜか驚いた。
伊野ちゃんは親じゃない。
親っぽくもない。
「電源切って」
俺が電源を切って鞄に仕舞ったのを確認して、教室に戻っていった。
薮って違う。
中島せんせも変な人だけれど、薮はもっと変だ。
普通の先生は、もっと自分よがりだ。
「はぁ……」
「あ、いたいた」
伊野ちゃんが、来た。
まぁ来たところで、特になんにもなんないんだけど。
「光はお疲れだねぇ」
「今から面談される生徒なんて皆こんなもんだろ」
「そういうもん?」
「そういうもん」
あと2組。
用意された椅子に腰掛けると、ガタン、と大きく傾いた。
背凭れを覗くと、大きく名前が書いてある。
「これ大ちゃんのだ……」
いつも椅子を傾けて後ろの席のクラスメイトと話してるからだ。
すり減ってるの気づいてないのかな。
「大ちゃんぽいなぁ」
俺が大ちゃんのことを話すとき、伊野ちゃんはいつも笑っている。
大ちゃんの話が好きなのか、その話をする俺を気に入っているのかは分からないけれど。
なんだかその時だけは、特別に心が満たされる感覚がするんだ。
「……伊野ちゃんってさ、」
「ん?なぁに?」
「……いいや」
「なんだよぉ」
「なんでもないって」
笑顔がいい、なんて言えねぇ……。
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作者名:柊 | 作成日時:2018年10月12日 19時