mission 4 ページ4
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見慣れた一戸建ての真ん前。
大ちゃんは1ブロック離れたところに住んでいるから、ここで「また明日」だ。
檜の壁やドアが未だ新しいことを象徴していて、他人の家だってことを嫌でも分からせてくれる。
「ただいま」
いつもならおかえり、と聞こえる筈の玄関先。
聞こえてきたのは、予想もしていなかった音だった。
にゃー
一度聞けば状況くらい掴める。それくらいにこの声が大嫌いなのだから。
「待ってネコちゃん!そっち行っちゃダ──」
「ぎゃぁぁああーー!!!」
「……だから言ったのに」
ネコになに言ったって通じねぇんだよ!だいたい俺がいつ帰ってくるかも把握できていない段階でネコを連れてくんな。俺が失神するのが目に見えてるだろうが!
心からの叫びを思いっきり口にする。
だから嫌だって言ったんだ。
ネコが大好きだよ〜と教えてもらったときから危ないとは思っていたが
まさかこう、3度も俺に飛び付いてくる同じネコを連れてくるとは思ってもみなかった。
「……聞いてんのかよ」
「だぁって光、失神しないじゃん」
「俺が失神するの期待してんのかよ」
「うん。白目向いてガハッて後ろに倒れるところ見たい!」
「俺の失神見たさにネコ持ち出してくんなって言ってるんだけど!?」
俺が今まさに当たっている相手は同居人、並びに親代わりの家族でもある。
伊野尾慧。
在宅勤務の建築士でネコ好き。
一行で紹介を終えることもできるけれどもう少し俺の不満を解消する時間をくれ。←
軽く伊野ちゃんと呼んでいるが、実は良いとこの坊っちゃんなのだ。
ぽわぽわ、というかふわふわ。
とにかく掴み所のないテキトー野郎だけど、頭だけは良い。勉強が分からなくなったら聞けば大方答えてくれる。
俺と昔からの知り合いだった大ちゃんのことはお気に入りだそうで、仲良くしてくれるし
俺にとっては、頼り甲斐のない安心材料とも言うべき存在だ。
「あ、失礼なこと考えてない?」
「そんなこと言える立場じゃねぇだろ」
「だから謝ってんじゃーん。ね?」
あと言い忘れていたことが1つ。
語尾を伸ばしだしたら俺に勝ち目はない、ということ。
「……はい」
なぜって?
語尾を伸ばすのは、伊野ちゃんに余裕が生まれたという合図だから。
そうなれば俺がなにを言ったところで敵う筈もなく、無駄な体力は使いたくないというのが俺の考え。
とにかく
「2度とネコを出すな!」
……奮闘記でも書こうか。
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作者名:柊 | 作成日時:2018年10月12日 19時