mission 18 ページ18
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「忘れてたけど、今期初じゃない?」
湿布の鼻につく匂い。
真っ白に揃えられた3台のベッド。
くるくると回る回転椅子。
白衣の教師。
……そう、ここは保健室だ。
「上手くやってんのかなって思った矢先に来たね。寝てく?」
そして授業中のはずの生徒に保健室で寝るのを勧めているこの先生は、保健の中島先生。
共学なんだから普通は女性だろ、ってみんなは考えるのかな。
勿論女だって保健の先生にはいるよ?
ただいつも暇してるのはこの中島せんせだけなんだよ。
「最近気になってることがあったから、来れなかった」
「ふーん。で今日はサボり、と」
「別にいいだろ。高1のときはほぼ毎日だったし」
「真面目になった方なのかな?」
苦笑いをしながらも座る椅子を用意してくれるところ、俺は好きだ。
中島せんせと仲良くなったのは高校入学直後だった。
中学からのサボり癖がそのまま悪化して、保健室に何回か仮病で通っていたらそれがバレて。
でも中島せんせは叱りもせず、「そういうときもあるよね」で終わらせた。
それからここが気に入って、今年の3月まではずっと入り浸っていた。
「成績下がらないわけ?」
「まあまあかな。美術得意だしいけるっしょ」
「主要科目は大事だよ」
「……数学教えて」
「しょうがないなぁ。ちゃんと授業受ければ分かると思うんだけど」
俺も初めはそう思ってた。
でも諦めたんだよ。
いや、大ちゃんでさえしっかり授業受けたのに赤点ギリギリって、それ俺が授業受けたら補習ってことだろ?
だからそんなじじいの数学受けるくらいなら中島せんせに教えてもらおうと決めたんだ。
俺の選択は間違いじゃない。きっと。←
「まずxを移項する」
「移項ってなに」
「そこ?じゃ、じゃあさ、こっちの7に9掛けるのは出来るでしょ?」
「ちょっと待てよ……なないちがなな。ななにが──」
「そこ待つところじゃないから!ていうか“なないちが”って言わないの。“しちいちが”だから!これ小2!」
俺の数学がどれだけ絶望的かがバレたところでピーンポーンパーンポーン。←
「あーあ、鳴っちゃった」
「光くん。これはまずいよ」
「小2のことが出来てないとはな……」
「今気づくのは遅すぎなんじゃないかなぁ?」
首を傾げながら惚けて笑うと中島せんせも首を傾げて指摘する。
確かにおせぇな。
「頑張った者勝ちだからさ。得意な教科だけでも伸ばしとこ?」
「そうする」
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作者名:柊 | 作成日時:2018年10月12日 19時