mission 15 ページ15
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その手はリズムを刻んで、ゆっくりと速度を上げた。
「そうはいかねぇな。俺らに金を払ってもらう予定なんだよ」
「へぇ……なら、今ここで俺が払いますよ」
見えたあいつの顔が、酷く頼れるものに感じた。
「穏便に済ませましょう。警察も呼んでいますから」
含みを持たせた笑みに、これが大人だと思い知らされた。
男は差し出された一万円札に手を伸ばす。
「チッ。好きにしろ」
追い出された車のエンジン音を聞いてからそいつは言った。
「……二度と来んなって言ったよな」
地を這うような低い声に顔を上げた。
「それはっ」
「言い訳はいらない。来い」
正真正銘、大嫌いなあいつの顔。
昼間とは反対に夜の住民だった。
「どこ行くんだよ」
「……」
「なぁっ」
叫んだと同時に視界がよろめいた。
背中をコンクリート壁に打ち付けられ胸が苦しい。
そいつは俺の肩を強く掴んだまま、長い脚を壁に着けた。
顔をぐっと近づけられ、吐息が掛かるくらいの距離になる。
俺を映した瞳が、宝石のように輝いている。
「黙って着いてこいよ。子供じゃねぇんだから」
挑発とも取れる発言に、感じたこともない恐怖を抱いた。
さっさと行ってしまうあいつに、体は勝手に言うことを聞く。
「……ここ、」
「入れ」
背中を押され店内に入ると受付に直行したそいつ。
通されたのは、VIPルームだった。
目の前の光景に唖然としていると、手をとられソファに投げ出される。
何をするのかと振り向けば視界はそいつで満たされていた。
両手をソファに縫いつけられた俺には、抵抗の余地などあるはずもなかった。
手首が痛みに悲鳴をあげている。
怖かった。
ただただ、恐かった。
逃げなきゃ殺られる。本気で死ぬと自覚した。
だから足掻いて、足掻いて──
「分かってんのかっ!」
息をすることを止めた細胞は、目の前の男に生死を委ねたのか。
脳内でさえ言うことを聞かなくなった俺は、酸素をなんとしても取り入れようと過呼吸になっていた。
「お前がされそうになったのは、こういうことなんだよ」
声を落として告げられたのは、分かっていた
……分かりたくもなかった現実だった。
「俺が怒ってる
知らなかったんだ。
「お前が誰にも知られない場所で死のうとしてるからだ」
初めて教えてくれたのは、こいつだったんだ。
大人は怖いんだ、ってことを。
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作者名:柊 | 作成日時:2018年10月12日 19時