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「A」
いっとう低い声が、私の名を呼ぶ。返事こそするものの目を合わせずにいれば、椅子に座っていたグルッペンさんは、立ち上がってつかつかとこちらに歩み寄ってきた。
目の前で立ち止まり、避けるなよ、と告げられた言葉に体が強張る。殴られるか、撃たれるか、いや、この人の武器は確か双剣だったはず、で。
「光栄などと言うんじゃない」
耐えられずに瞬きをした一瞬で、柔らかいものに頬を包まれた。視線をやれば彼が嵌めている手袋で、それを認識した途端、強引とは呼べないほどの、けれど抗うには強い力がその手に篭もり、ぐっと顔を上げさせられた。自然、かち合った視線の先で、グルッペンさんの瞳は真っ直ぐにこちらを見つめている。
「俺が、俺たちがお前を欲しがったのは、待ち望んだのは、お前の働きに対する正当な評価だ」
「……は、」
「いいな、光栄などではない、お前は俺たちに望まれるだけの働きをしている、それだけの実力がある。幹部に、仲間になったからには、賛辞に対して恐縮することは許さん」
「あ、の」
「それがお前の体に染み付いて離れないと言うのなら、お前が何の遠慮も臆面もなく賞賛を受け止められるようになるまで、俺たちが何度でも褒め讃えよう」
光栄、恐縮、身に余る。そんな言葉が頭の中をぐるぐると回って、危うく口に出そうになって、けれど許さないと言われたからにはそうも出来ずに押し止める。
結果、はくはくと言葉の出ない唇を動かしているだけの私は、さぞ滑稽だっただろう。
「はいはいグルさん、気持ちはわかるけどA固まっとるから手ぇ離し」
「む」
ぽんと肩を叩いたトントンさんの言葉を受け、じっとこちらの顔を覗き込んで不満げに目を細めた彼は、何故だか名残惜しそうにするりと指先で私の頬を撫でてから手を離した。呆れたようにそれを見ていたトントンさんは、彼からこちらに視線を移してゆるりと微笑む。
「うちの総統はこういうお人や、幹部全員漏れなく慣らされとるから安心しい」
それは、つまり。
そろりと見やった先の幹部の方々は一様にこくりと頷いてみせ、次いで見上げたしんぺい神さんと兄さんにもにこりと微笑まれる。
「改めて、我が国へようこそ、A」
不敵に笑ったグルッペンさんが、大きく手を広げた。
「我々は、お前を心から歓迎するゾ！！」
もしかしたら、とんでもない人に忠誠を誓ってしまったのかもしれない、なんて。今更なことを考えながら、私はぼんやりとその言葉を聞いていた。
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陽乃(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます、黒猫様の御趣味に添えられたようで嬉しい限りです。続編ものんびり書いておりますので、楽しんでいただければ幸いです。 (2020年5月29日 16時) (
レス) id: 89afdb7f98 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 全て見させていただきました。俺はこういう作品が好きなので、とてもいい気持ちになりながら見ていました。神作品をありがとうございます。 (2020年5月21日 10時) (レス) id: 0779f5a88d (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - （名前）さん» コメントありがとうございます。建物の設定は実在する基地や城塞、そして仰る通り大脱走など御本人たちの動画を参考にした部分もありますね。気づいてくださって嬉しいです。 (2020年4月12日 21時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - 9の途中まで見ました〜なんかPX、商店、、かな？みた途端、大脱走元にしてるんかなって思ったーーー！！実際どうですか？本当に大脱出が元だったら、、違うくても、話の作り方、うますぎる… (2020年4月12日 19時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - 黒胡椒さん» コメントありがとうございます、のんびり更新していきますのでよければお付き合いください。 (2020年4月4日 3時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：陽乃 | 作成日時：2020年3月16日 17時
