44.酒場 ページ44
到着した酒場の中に入ると、ざわめきが一瞬小さくなった。女一人での来客は珍しいからだろう、不躾な視線を送ってくる男もいる。
空いている席を探す振りをしてちらりと店の中に視線をやると、向かって左側の最奥に目当ての兵士がいることに気づく。幸いその隣の二人席が空いていたので、店員にアルコールの入っていない飲み物を注文してそこに向かった。
席に着き、待ち合わせを装うために腕時計を確認し、小さな鏡を取り出して髪を整える。さして洒落た格好でもないし、それが似合うほど格式ばった店でもないのがありがたい。確認程度でその作業を終わらせ、後は運ばれてきた飲み物に口をつけながらいもしない誰かを待つ。
「……悪い、遅れた」
「いや、大丈夫だ」
扉が開き、目当ての兵士が現れる。ちらりと期待の篭もった視線をやって、すぐに落胆した振りで再度机に視線を落とした。
アルコール度数の低い酒を飲みながらやり取りされる情報に興味はないが、手帳と共に出したペンの尻を二度浅くノックする。これで録音機能がオンになるというのだから、全くもってこの世界の技術の発展具合がわからない。ああでも、前世でも世界大戦あたりではペン型のピストルやら懐中電灯型のスタンガンやらが開発されていたのだし、その頃くらいなんだろうか。
今嵌めている腕時計についたカメラも、確かその頃のスパイ御用達の技術だ。
腕時計の文字盤を訝しげに見て、動いてない、と小さく口にする。手首から外したそれを弄るふりをして数度カメラのシャッターを切る、画像や録音データはそのままロボロさんの見ているモニターに転送されるらしい。
イヤホンから、バッチリやで、と彼のよく通る声が聞こえる。二度爪先でかつかつと叩いて了解の意を示し、溜息を吐いて腕時計を嵌め直した。手帳をしまい、ペンはわざと机に置いたまま会計に向かう。
「おい」
「……はい？」
店から出ようとしたところで声を掛けられて、振り返る。そこにいたのは目当ての二人連れで、これから会計を済ますところなのだろう、その手には私が置き忘れたペンがしっかりと握られていた。
「忘れもんだ」
「あ、わざわざありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて受け取り、そのまま店の外に出て、持ってきてあったパックにペンを入れる。これを握っていたのは潜入していない方の兵士だ、指紋くらいはとれるだろう。分解された跡もない。
「……」
すぐ傍の裏路地で足を止めて、息を潜める。
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陽乃(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます、黒猫様の御趣味に添えられたようで嬉しい限りです。続編ものんびり書いておりますので、楽しんでいただければ幸いです。 (2020年5月29日 16時) (
レス) id: 89afdb7f98 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 全て見させていただきました。俺はこういう作品が好きなので、とてもいい気持ちになりながら見ていました。神作品をありがとうございます。 (2020年5月21日 10時) (レス) id: 0779f5a88d (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - （名前）さん» コメントありがとうございます。建物の設定は実在する基地や城塞、そして仰る通り大脱走など御本人たちの動画を参考にした部分もありますね。気づいてくださって嬉しいです。 (2020年4月12日 21時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - 9の途中まで見ました〜なんかPX、商店、、かな？みた途端、大脱走元にしてるんかなって思ったーーー！！実際どうですか？本当に大脱出が元だったら、、違うくても、話の作り方、うますぎる… (2020年4月12日 19時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - 黒胡椒さん» コメントありがとうございます、のんびり更新していきますのでよければお付き合いください。 (2020年4月4日 3時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：陽乃 | 作成日時：2020年3月16日 17時
