19.総統室 ページ19
言葉の意味は、勿論わかる。けれど幹部でもなければ軍に仕える身でもない私が、どうして食事を共にしていいものか。というかそもそも、こんなに急に現れた私の分なんてあるわけがないし、あったとしてもきっと食べられない。
「私、一旦部屋に戻りますね」
「え、なんで？」
「軟膏を置きに行こうかと、どこかに忘れてしまったら困りますから」
「ああ、なるほどね」
人の良さそうな笑みでひらひらと手を振るしんぺい神さんに会釈をして、早足に部屋に戻る。軟膏を机の上に置き、一つ溜息を吐いてから向かったのは総統室だ。
ノックをして、少し声を張って名乗る。入れ、との返答にゆっくりとドアを開けると、変わらずどこか楽しげな笑みを浮かべているグルッペンさんの横に、無表情のトントンさんが控えていた。
「どうした」
「二、三、お許しいただきたいことが御座いまして」
「聞こう」
「まず、私の食事に関しては必要ありませんので、お気になさらないようお願い致します」
「……ほう、俺達が信用に値しないと？」
「いえ、人前での食事が苦手なのです」
眼鏡の奥で、二人の目が同時にぱちりと瞬いた。それから視線を交わして、再度こちらを見る。
珍しいものを見るような視線だ。
「テーブルマナー気にするような奴らじゃないで？」
「有難いことですが、それ以外の要因も多分に御座いますので」
「聞かせてもらってええ？」
「食事中は手が塞がるので、周囲への警戒が怠れません。特に軍人である皆様の身の運び方には慣れておりませんので、何に反応してどう行動するかわかりません」
「……うちの幹部がそう簡単に傷つけられるとは思えんな、お前の自制心がそれほど脆いとも」
「しんぺい神様の診察を受けている間、私の手が何度武器に伸びそうになったかを申し上げた方がよろしいですか？」
こんな風に、と袖口に仕込まれたナイフを一瞬で取り出してみせる。同時にトントンさんはグルッペンさんを背に庇うように立って、私が何をする気もないことを悟ったのか顔を顰めた。
「……ほんまに昔のゾムみたいやなあ」
「あいつ未だに医務室嫌いだしな」
「ていうか、そしたら飯どうするん？ わざわざ外に食いに行くんか？」
「ああいえ、そもそも食事はそんなに取らないので大丈夫です」
ナイフを仕舞って言えば、ぴたりと彼が動きを止めた。
「……念の為に聞くけど、必要な頻度と量は？」
「一日一度、パン一つで十分ですかね」
「グルさんあかん、食わそう」
「当たり前だ」
「え」
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陽乃(プロフ) - 黒猫さん» コメントありがとうございます、黒猫様の御趣味に添えられたようで嬉しい限りです。続編ものんびり書いておりますので、楽しんでいただければ幸いです。 (2020年5月29日 16時) (
レス) id: 89afdb7f98 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫 - 全て見させていただきました。俺はこういう作品が好きなので、とてもいい気持ちになりながら見ていました。神作品をありがとうございます。 (2020年5月21日 10時) (レス) id: 0779f5a88d (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - （名前）さん» コメントありがとうございます。建物の設定は実在する基地や城塞、そして仰る通り大脱走など御本人たちの動画を参考にした部分もありますね。気づいてくださって嬉しいです。 (2020年4月12日 21時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
（名前） - 9の途中まで見ました〜なんかPX、商店、、かな？みた途端、大脱走元にしてるんかなって思ったーーー！！実際どうですか？本当に大脱出が元だったら、、違うくても、話の作り方、うますぎる… (2020年4月12日 19時) (レス) id: ca685f05f7 (このIDを非表示/違反報告)
陽乃(プロフ) - 黒胡椒さん» コメントありがとうございます、のんびり更新していきますのでよければお付き合いください。 (2020年4月4日 3時) (レス) id: 4760b364cd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：陽乃 | 作成日時：2020年3月16日 17時
