QK短編集

遺〜izsg ページ10

『まだこっちに来たら駄目だよ』
そう結ばれた文。
紙の上で踊る彼の字。
涙で滲んだ万年筆のインク。
草花がデザインされた便箋。
これまでの当たり前は、愛すべき人とともに消え去ってしまった。
須貝さ...駿貴さんが亡くなったのは両手では数えきれないという程かなり前の事だと言うのに、俺はまだその事実を受け入れられていない。
もう皆はとっくに受け入れて立ち直っているというのに。
自分の脆弱な精神が憎らしい。
毎日、テーブルの向かいに彼がいないだけで。
彼と撮った最期の写真を見るだけで。
涙を零してしまう俺はまだ彼のことを忘れることができていないのだろうか。
そんな俺を笑ってくれる彼はもういないのだろうか。
もう、彼のあんな元気な声が聞けないのか。
...彼が亡くなってしまった時、すぐにでも後を追いたかった。
あっちの世界で、一緒に、幸せになりたかった。
彼からの手紙なんか見つけなかったら、まだ俺が生きていることはなかっただろう。
これまでは彼の為にちゃんと、何かしてあげられたことなんてなかったから
頼まれたことくらいは最期までやり遂げなければならない。
俺にとっての幸せは、彼が笑顔でいられることだから。
まぁ、そんな彼の笑顔は見れないんだけどさ...。
…どうして貴方は俺を置いて逝ってしまったの？
どうして俺に何も言わなかったの？
どうして、どうして…
嗚呼駄目だ、これ以上考えるとまた、
「貴方は笑ってくれって言ったのに」
そんな心とは裏腹に、溢れ出た思いが止まらなくて。
「もう、誰も俺のことを笑ってはくれないのに」
俺が笑顔でいる他に、貴方が幸せになることはできないのに。
「誰も幸せになれないのに」
でも、
｢愛してるよ、駿貴、｣
永遠に、ね。


『もうすぐ死んでしまう俺から、最後のお願い。

どうか笑っていて
まだこっちに来たら駄目だよ』

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恐らくこれで最後です。
あ、でもリクエスト来たらやりますよ?

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