アリス、喚く 01 ページ23
ハットは呟いた後､何も話そうとしなかった｡饒舌な帽子屋を演じていた頃とは正反対だ｡無理をさせていたのかなとAは少し申し訳なさを感じてしまう｡
だからせめて自分が明るくあろうと､声のトーンを上げて言った｡
｢さて､じゃあ行こっか!｣
｢……どこに?｣
｢どこって……もー､決まってるじゃん!タリアテッレにだよ｡ハットくんがここに来たのは､私をお迎えにきてくれたからでしょ?｣
ハットが目を見開く｡それを見てAは不安になった｡
私､ちゃんと笑えてるかな?あれ､もしかして笑うの下手っぴだった?
ハットはしばらく口を開こうとはしなかった｡黙って彼女をじっと見つめて｡
そしてフッと目線を逸らした｡
｢俺､傘持ってないんだ｣
｢うん､そっか……うん?｣
｢この雨じゃ俺もAも濡れちゃうだろ｡俺としては濡れたくないからさ､雨が止むまではここにいようよ｡どうせもうすぐ止むだろ?な?｣
ハットはニッと笑ってAを見る｡ようやく本物の笑顔を見せてくれたのだと､Aは直感的に悟った｡
｢……もう､しょうがないなあ｣
呆れたように彼女は笑う｡本当は笑ってくれたことがものすごく嬉しかったのだけれど｡手離しで喜んでいては､16歳になった彼に釣り合わないと思った故にAはそんな表情を浮かべたのだ｡
Aは言葉を交わすことなく､目の前を落ちていく雨粒を見つめていた｡雨音のBGMが心地よい｡
いつまでもこのまま雨が止まなければ｡
そんなことを考えて､彼女は目を細める｡
無理なことだとは分かっていた､現に向こうの方の空からは青色が覗いているくらいなのだから｡自分でも直に止むと､リングに言ってしまったわけだし｡
それでももうしばらくは止まないでと､願わずにはいられなかった｡
だって､本当は｡
本当､は……｡
｢ねえ､本気なの｣
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2020年9月17日 21時
