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｢……あ､れ｣
何も考えずフラフラと歩いていたツナは､ふと立ち止まった｡
自分の部屋に戻ろうと思って足を進めていた｡そのはずなのに､気づけば本来の道から大きく反れていたのである｡
｢はは……笑えねえ｣
渇いた笑いをこぼしてから､彼はそう呟く｡笑えているではないか､とはどうか言わないでやってほしい｡さっきも言ったように余裕なんて皆無なのである｡
皮肉なことにも､ツナは無意識のうちに医務室へ向かおうとしていたのだ｡
そこが廊下であるにも関わらず､彼は壁に背中を預けてズルズルと座りこんでしまった｡
｢何やってんだ､俺……｣
抱えた膝に頭を押し付けて､逃げるように目をつぶる｡だけどそう簡単には逃がしてはくれないのが現実というもの｡
今の自分がAの所に行っていいのか｡
彼女によってなされた"タリアテッレファミリーに行く"という選択を聞いて､何もできなかった自分が｡
背中を押すでもなく､はたまた引き留めるわけでもなく､ただ一言｢そっか｣としか言えなかった自分が｡
彼女に会う資格が､果たしてあるのだろうか｡
｢……ない､よな｣
あるわけがない｡
彼が導き出した答えはそれだった｡
ツナは立ち上がると､再び歩き出す｡
あくまで医務室とは逆方向に｡
後腐れなく寛大な心で彼女を送り出すべきことは分かっていた｡ぎくしゃくしたままだなんて以ての外だということだって｡
それでも､そうだとしても｡
今のツナに､Aと向き合う勇気はなかったのである｡
不甲斐ない俺を､どうか｡
医務室では懸命に押し殺そうとしてできなかったすすり泣きが聞こえる｡
すれ違いは加速していくばかり｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2020年9月17日 21時
