アリス、想い出に耽る 01 ページ19
あの日｡
母親が買い出しに出かけた後訪ねてきた男に､Aはあっさり着いていった｡母親に頼まれて来たという､その男のデタラメを疑うことなく｡
少し歩いたところに車が置かれており､男はAに乗るよう言った｡もちろん彼女は素直に乗る｡そして手渡された飲み物を一気に飲み干した｡男が寝起きで喉が渇いただろうからと気遣って飲み物をくれたのだ｡
なお､それを飲んでから再び目を覚ますまでの記憶がAにはない｡大方渡された飲み物に睡眠薬でも盛られていたのだろう｡その手の知識が皆無な彼女が気づくはずもない｡
そしてAが気づいた時には､薄暗い部屋にいた｡
｢どこ､ここ……ママ?パパ?｣
キョロキョロと周りを見回すが､どこからも返事は返ってこない｡
その薄暗い部屋はどうやら実験室のようだった｡部屋の奥で何やらコポコポと液体が弾けるような音がする｡部屋のどこかで気体が勢いよく噴出しているような音も聞こえた｡
訳が分からずに恐怖を覚えたAはぽろぽろと涙をこぼして､両親を呼んだ｡当時の彼女に自力で逃げ出すという考えはなかった､彼女はまだ5歳と幼く両親に助けを乞えば何とかしてもらえると思っていたからだ｡
だけど生憎､その声が届く範囲に彼女の味方はいなかった｡
｢あれえ?｣
……敵ならいたが｡
｢起きたんだあ〜､おはよう｡ねえねえねえ!僕の睡眠薬､寝心地はよかった?教えてよ､おじょーさん!｣
明らかにヤバイ奴がやってきた｡さっきAを拉致した男とは別人のようだ｡
残念ながら頼れそうな人間は彼を除いて他にいない｡藁にもすがるような気持ちでAは彼に話しかけた｡
｢あ……の､ここはどこなの?ママとパパは?ここに……いるんだよね?｣
ニコニコとAの質問に彼は頷くが､何も教えてはくれない｡Aが泣き出すのは時間の問題だった｡
｢まま､ぱぱ､どこぉ……?誰か､助けて｣
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2020年9月17日 21時
