【土方十四郎】好きと言わないで (ページ8)

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０７/悪夢を見た夜の日の事ページ8

夢主.Said

＊

結局、捨てる事も出来ずにクシャクシャになった紙を制服のポケットから取り出した。
土方十四郎、名前だけ知っていた。でもまさか、私が知っているほどの有名人に目をつけられるとは。

「……お兄ちゃんに、なんて言おう」

そればかりが、私の頭を今の今まで悩ませている。
兄はきっと、これを年上の異性から貰った手紙だと知ったら怒るだろう。

耐えられる痛みにも限りがある。骨を折られ、地下に閉じ込められてしまうかもしれない。

……兄は、激昂すると酷く私を痛めつける。

今日もまた、平和に毎日を過ごせるように、
兄の顔色を窺って、兄に余計な心配をさせないように。

始めは命を絶ってしまおうかと思った、でも今は、昔より幾分か落ち着いている。

中身だけ見て、捨ててしまおう

丸まった紙を開いて、中身を見た。
書いてあったのは、私が想像していたのとまるで違う、慰めの言葉でも、甘酸っぱい告白の文面でもない。

小さく折りたたんである写真が、真っ白の紙に張り付けてある。

……帰路の途中にある、滑り台しかない殺風景な公園の後ろ。
古い一軒家が赤い丸で括られていた。

私は彼が言っていた意味を大体理解した。
きっと彼は、私が暴力を振るわれていることを知っているんだ。

だから、じっと我慢する生活に疲れたらここに来い、と、そういう……

思案に暮れる私の無防備な肩を、誰かが叩いた。
振り向くより早く写真をしまった。

「…あ、…おばさん、こんにちは」

「どうしたの？こんなところで立ってたら危ないわよ」

「すみません…」

後ろに立つ人に気づかないなんて。鼓動がドクドクと煩い。
落ち着かなきゃと、そう思うのに、足が急く。

＊

「遅かったね」

「一つ電車を…乗り過ごしたの。」

「……そうか」

帰ってきた兄は、鋭い眼で私の、後ろに回される腕を掴んだ。

「何を隠してる？」

静かに、密やかに、冷たい指が頬を撫でた。
息が詰まる、それは体温より遥かに低い温度

「お兄ちゃん、私、…隠し事なんて、」

私の緩んだ手中から、一枚真っ白の紙を奪った。
幸いなことに、写真の方は兄の目にはまだ触れていない。

……一瞬の安堵も、気休めにしかならなかった。

「…床を汚さない程度にしないとね」

兄は呟くと、私の腹に蹴りを入れた。
受け身を取れず転がった私を、兄はまるで汚いものを見るような目で見下した。

　