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……
「こんなところにきみが来るだなんて、何か変なものでも食べたのかい？」
息が、止まるかと思った。
卒業式も何事もなく終わった。この校舎は今日を最後に二度と立ち入らない場所になる。そのせいか、私の判断能力は少しばかり鈍っていたらしい。
あの日、白い少年を見かけた場所＿＿屋上へと続く階段を登り、職員室から拝借してきた鍵を開け、ドアノブを回したところで、声がした。……外側から、声がしたのだ。ちゃんと鍵は閉まっていたはずなのに、と情けない声が零れ落ちる。
「ああ、鍵、鍵か。そんなものなくたって俺はここまで来れるさ。元々の力があればな」
「それって＿＿」
「なあ、きみ、本当に覚えていないのかい？ 俺と交わした約束をひとつも？」
話をひとつも聞きやしない男は固まった私の腕をいつかのように引いた。助かったと思ったのは、その力が以前より弱かったせいだろうか。それでも怖いと思った。初めて会ったあの日、透き通るような薄い琥珀色をしていた瞳は今、爛々と輝き私を捕らえて離さない。蛇に睨まれた蛙のような気分だ。
「意味がわからない」
「あの時きちんと
何か不穏な言葉が聞こえた。切る？ 縁を？ やめてくれ、それ以上おかしなことを言われては発狂しない自信がない。
「なあ、きみ、俺がわかるかい？ 俺の名前を呼べるかい？」
「なに、急に、おかしいよ、つる、」
身体が思うように動かない。軋みは前回より酷くなっていて、全身がバラバラになりそうだ。痛い、痛い、痛い。苦痛に顔が歪む。金色の中の私も酷い顔をしていた。
「ねえ、なに、これ、」
「ああ、きみはやはり＿＿」
Aなのか、と静かに彼が息を吐く。その瞳は私を見ていない。私じゃない誰かを見ている。きみが今呼んだのは私か、
「きみを好きだ、ずっとずっと後悔していた。守らなければいけなかったのに、俺はきみに酷く寂しい思いをさせてしまっていたらしい。なあ、きみは俺を駄目な男だと思うかい？」
「あなたが言ってるのは、私じゃ、ない」
「訳が分からないな。君はここにいるじゃないか」
「だから、わたしは、人間だって、」
「きみは最初から最後まで人間だろう？ 知っているさ」
「わたしは、審神者じゃないの、」
「…………それでも」
＿＿それでも、俺が守るべきなのはきみなんだ。
……
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作者名：木浪 | 作成日時：2020年4月21日 15時
