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……


「よっ! 驚いたかい?」
「…………鶴丸国永」


彼は嵐のような人だった。或いは夕立。突拍子もなく現れて、いつの間にか消えている。静と動、動と静。目立つはずの白髪が儚いなどという私の考えは決して的外れではなかったらしい。


「なんだよきみ、せっかく人が会いに来てやったというのに」
「私は会いに来て、なんて頼んでないもの。それより次の時間は移動教室じゃないの、鶴丸くん」
「きみ、どうしてそんなに機嫌が悪いんだい? まるで__」
「うん? 今何か言った?」
「…………いや、うん。そうだな、なんでもない」


彼の言葉が聞き取れなかった。頭の中に直接雑音(ノイズ)が入り込んできたような感覚に、不快な気持ちになる。私の言葉に何を思ったのか、彼も彼でそのことをもう一度言おうとはしなかった。


「あぁわかった、きみ友達がいないんだな?」
「今すぐこの教室から出ていってくれない?」
「図星だからといって睨むなよ、可愛い顔が台無しだぜ?」
「どこでそんな気障(キザ)ったらしい台詞覚えてくるの? きみ、たしかしばらく眠ってたんじゃなかったっけ」
「おっと、痛いところを突かれたな。確かに俺は寝ていたが、魂との会話をしていなかった訳じゃあないぜ?」
「…………魂との会話?」
「あぁ、言っていなかったな。俺は鶴丸国永__刀剣男士、というやつだ」


ひやりとした何かが背筋を伝った感覚があった。四月の冷たさとは違う何か。器が警報を鳴らしている。逃げろと脳が言っている。動けない、動けない、動けない。

鶴丸国永と名乗った男の、その色素の薄い目が私を捉えた。捕らえられた、と思うには遅すぎた。あまりにも彼との距離が近かったから。



……

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作者名:木浪 | 作成日時:2020年4月21日 15時

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