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「──でさ、ジェノったら容赦ねえの。一口だけだよ？ 俺が食ったの」
「でも、それはくまちゃんが悪いでしょ〜」
気まずいって思ってたのに、喋りだしたらそんなことなくて。
会話が弾むからやっぱイドンヒョクと気が合うのかも。
「そういえばAちゃんと帰んの2回目じゃね」
「そうだね、あの時はありがとう」
「いーえー。つかAちゃんって意外とドジなんだね」
ボールを顔面で受けるってなかなかないよね、とにやにやしてくるイドンヒョクにムカついて反対側を向くと、彼も向いた側に合わせて来るもんだから、また視界に入ってくる。
なんなんだ。
「あれは私がドジじゃなくて……」
「あーはいはい。ホント、Aちゃんはエギだからな〜」
「いや、エギじゃないって」
「いやいや、エギだろ」
歩きながら、ふたりして大騒ぎして笑い合う。
「は〜……でもよかった」
「何が？」
「さっき調子悪かった？ なんかテンション低かったから」
「あー……」
噂のこと気にしたなんて言えるわけなくて適当にはぐらかす。
……というかイドンヒョクの耳にも入っているのだろうか。
「……ちょっとね」
「ふーん。なんかあったら言えよ」
「ありがとう」
なんだか噂を気にしていたのがくだらなくなってきた。
イドンヒョクとのこの距離感を大事にしたいなと思う。
「つか、Aちゃんと最寄りまで一緒とか思わなかったわ」
「意外と近所に住んでたんだね」
「な。また一緒に帰ろうぜ」
「えー、どうしようかな」
「は？ そこは『いいよ』だろ」
「ふふ、冗談だよ。いいに決まってんじゃん」
最寄りに着いてからもイドンヒョクは優しかった。なんなら家まで送る、ときっちり玄関前まで送ってくれた。
「イドンヒョク」
「ん？」
「送ってくれて、ありがとう」
「おう。ご飯いっぱい食べて、暖かくして寝ろよ」
「お父さんみたい」
「るせー。じゃ、俺は帰るからな」
「うん、気をつけて。また明日ね」
「おーまた明日」
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作者名：砂糖と塩 | 作成日時：2023年5月18日 8時
