第4幕 ページ6
華桜会の神聖なる会議室に一人、主席専用の机に腕組みし学科長から受けた資料を冷ややかに眺める。
外部秘…俺以外の華桜会にすら漏らしてはならないと念を圧され、老狸の如く厭らしい笑みまで寄越されてしまったが、さてどうしようか。
昨日までにオーディション受験票を提出した新入生たちの名と共に、合格・不合格…一部にはスター枠の指定までされている。
この人選が学科長のお考え、ということだ。
といっても恐らく、ここに選ばれた人間の中にまともな綾薙ブランドを継げるような者は存在しないだろう。
フンッ……金は万事万物を歪ませるか。
「おお、大阪、どうかしたのか？」
「伏見か…何でもないよ」
合図も無しに入り込んできてから、奴は目の前に寄ってくるから目を通しきらないまま資料を引き出しに仕舞い鍵を掛けた。
「何かな」
問を掛けてくるような、物言いたげな眼で見られているようだが俺から言葉を放てば何故か嬉しそうにしている。
俺を謀るつもりなのだろうかとこいつが俺を見て笑う度少々腹立たしい事もあるが、実は大した思惑などない、ただの能天気なだけだとこの3年目にして理解はし始めた。
「実家の手伝いもあるのに華桜会や他の業務も増えて大変だろう、いつだって頼ってくれよ」
生ぬるい春風に頬を撫でられるようで好ましい心持ちではないけれど、そちらから進んで願い出てくれると言うのならば喜んで利用させてもらうことにしよう。
といってもそんな機会はないだろうけどね。
「君の熱意だけありがたく頂くよ。さて、オーディション会場へ急ごうかな」
伏見の横を過ぎて颯爽と歩みだしたが彼は呑気に早足で追い付いてきて隣にならび出そうとする。
「あっうっちゃん陽くん遅いよ！」
廊下の先で話をしていたのか、姫路と長浜が一斉にこちらを見た。
「おら、ちゃっちゃと新入生たちの面拝みに行こーぜ！」
軽い口調で、後ろ指で向こう側を指す姿は英才教育を受けてきた俺とはあまりタイプが合わず困るところである。
「はぁ…くれぐれも華桜会らしく品のある振る舞いをお願いするよ」
「ったくくどいやっちゃなぁ！」
「いっ！」
この俺の背をいきなり叩くとは、全くどんな教育を受けてきたんだ。
全く同じ御曹司とは思えないがさつな奴だ。
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作者名：和澄紫郎 | 作成日時：2020年1月24日 13時
