第27幕 ページ30
ガキの頃からあれこれと強制されて生きてきた。
学力や成績では競争へ放り込むくせに、くだらない人間関係ではあらゆる手を持ってコネを作れと振り回された。
母はただ、権力と名声が欲しいだけの見栄っ張りな哀れな人間。
そして自分の考えた最高の息子を押し付けてきた。
俺には何一つ、自分のものなどない。
全て母のセレクションによる装飾品。
常磐田顕介という少年は母親の威光を知らしめるツールにしか過ぎなかった。
だとしても、今まで耐えに耐えて最高級を貫いてきた。
結果的に結局は母のためだったかもしれない。
だが常にいかなる場所でも頂点に立つことで、皆"俺"を見上げていた。
そうだ、俺を、俺を見ろ。
お前たちが見ているのは常磐田顕介というアスリートだ。
生憎時にくそくらえと思うあの女は毒親ではなかったために、良い成績を残せば誉めることはしていた。
「顕介あのコンサートでも最優秀賞を獲れたなんてねぇ!
流石、"私の息子"だわ」
やめろ、その呪いをかけるな。
「
「当然だ。俺はトップにしか立たない」
ひたすらに気分が悪い。
それでも一等を手にし続けるのを心の拠り所として胸を張って…気を張って…
意識を張り積めさせてきた。
そこに風穴を開けたのが、舞台だった。
姿も名前も変えているのに、何故存在が大きいのか。どうしてそうも歌い上げるのか。
不思議でならなかった。
船酔いしたみたいな違和感に襲われて、かきみだされていった。
母によって構築されてきた俺の世界が綻び始めた。
元々の進路は首都の難関大学への進学率が高い高校へ行くと聞かされそのつもりだったのが、何の悪戯か母が唐突に「綾薙学園」を受けろと言い出した。
綾薙へ通うということ自体に悪い気はしなかったが、結局俺は母の傀儡に過ぎなかった。
もう嫌気が零れ始めていた。
初歩的な解離のつもりで、俺は実家からも通わず寮にも入らず、一人暮らしをすることを条件に綾薙の試験を受けた。
暫くの間の生活費は祖母の遺産から出され、それ以降は自分自身で工面する。
生温い寮生活も、馴れ合いもしない。
俺は頂点に立つ。独りで。
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:和澄紫郎 | 作成日時:2020年1月24日 13時