第25幕 ページ28
「＿＿で…って、うっちゃん聞いてるの？」
「えっ 何だ姫路」
すっかり魂が身体から抜け出してしまっていて、姫路が一体何を饒舌に語っていたのか、全く覚えていない。
そんな俺に呆れて「もう」と唸り、甘味を一つ頬張った。
「あんなにやる気がないなんて思わないでしょ普通！なんで先生達はあんな子スター枠にさせるわけっ？！教えがいがないにもほどがあるし…」
と、可愛らしい風貌からは延々と愚痴が出てくる。
「ふっ 姫路は頑固親父みたいなことを言うな」
冗談のつもりでそう言ったが姫路には「そういう話じゃない！」と苦言を呈されてしまった。
「す、すまない…だけど少し落ち着いてくれ」
怒りの熱量が甘味処の一室に籠っている。
「はぁ…でもあの時は勢いで妥協しちゃったし、頑張ってくれてる陽くんの前じゃこんなこと言いづらいもん…」
きっと俺達が自由に過ごしているこの間も、大阪は華桜会として綾薙学園の安寧を試行錯誤しているか、それこそ実家の業務で追われているのかもしれない。
まだ大人になりきれていない一人の高校生の双肩に、いくつも重責がもたれ掛かっているのかと考えるだけで息が詰まる。
「うっちゃんのチームの子はどんな感じ？」
「あぁ…」
言われてみれば姫路の愚痴の通り、思っていたような綾薙のミュージカル学科を志す者としての風格とはどうしても…いや、あの二人は違ったな…
「確かに姫路の言うような者もいたが…柿沢若葉と山吹クリフという生徒は中々いい顔つきをしていた」
「確か首席で入った子と背の高いハーフの子だよね」
「そうだ」
彼らの真摯に稽古へ臨む姿勢と実力、眼差し、情熱…ほんの少し、否一目見ただけでも伝わる本物のスターのオーラがあった。
「でもさっ 本命は他にいるんでしょ？」
「ほ、本命…？」
まるで今まで恋愛話でもしていたように悪戯ぽい笑顔で顔を寄せてきた。
本命…そんなおかしな意味でなく、確かに最も気になっている生徒はいる。
「藤本旭…彼は一般枠だったかな」
「そうそう。どー考えても実力的にスター枠でもおかしくないんだけどねぇ」
そう、彼がスター候補として選ばれていれば俺は迷いなく藤本をチームに入れていたかもしれない。
ただの個人的興味もあるけれど。
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作者名：和澄紫郎 | 作成日時：2020年1月24日 13時
