第11幕 ページ13
従来の入科オーディションの選定方法としては、オーディションでの出来と調査表を元にまず教師陣と華桜会主席を含めたミュージカル学科関係者によって100名の合否を出す。
そしてその100名から今度は華桜会メンバーのみでスター枠候補を絞っていくというものだが…
「スター枠候補は既にこの20名と決定させてもらいました」
「え？」
該当する生徒のみを纏めたプリントを見て一同顔を曇らせる。
無理もないだろうね。
「おいどうゆうこった！こいつらほとんど録なパフォーマンスも出来てなかったじゃねーか！」
「これは僕が公平な判断を下したまでさ。どんな生徒にでも等しくチャンスを与えていかなくてはね」
「はぁ？！」
「ちょっと喧嘩はやめてよつっくん！」
姫路が声を上げると奴は矛先を失った怒りを吐き捨てて、俺から顔を背けるように席についた。
「さ、この中から指導にあたる生徒を選んでくれたまえ」
そうは言ったものの、案の定誰も手をつけられずにいた。
20分も過ぎようというとき、長浜が無造作に候補生の顔写真を振り分け立ち上がった。
「もうこれでいいだろ。俺は帰る」
散らかしたように置いた写真を残して、奴はとうとうこちらの振り返らずに華桜館から逃げるように抜けていった。
「…ぼ、僕もそれで大丈夫だから！ごめんあとよろしくね陽くん！」
姫路ははらはらとしだして俺たちと長浜のいったほうをキョロキョロとしながら後を追っていった。
「…」
「長浜、姫路…」
二人が出ていった会議室の扉を見つめた後、奴は静かに俺に視線を戻す。
「大阪…」
「君もそのメンバーで相違ないかな」
慈愛のような眼差しを向けようとした奴を遮り返答を待つ。
一度手元の写真を見た後、多少眉は下がったが妥協したように細かく頷いた。
「ならもう君もかえってくれて構わないよ。後はまた、僕一人の仕事だ」
腹辺りに滞る黒いものを嫌味として言葉の間に潜ませる。
こんな言葉を口から漏らそうと俺は痛くもなんともない。
「お前は…一人じゃないぞ」
静かに席を立って俺を見下ろした。
「＿＿帰ってくれ」
冷たく、月明かりが差してくらくなった会議室でそれだけ告げた。
「すまない、後は頼んだ」
奴は開け放しだった扉を小さな音だけ残して閉ざしていった。
何故お前が苦しそうな顔をするんだ…
他人の思考に鈍いお前に、俺の思いなど解るものか…！
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作者名：和澄紫郎 | 作成日時：2020年1月24日 13時
