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　　ー０３° ページ36

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　防衛任務後だった。
　欠伸を吐き出しながら玄関を跨ぐと三和土に揃えられている靴の数が足りない。気づいた迅の血の気が音を立てて引いてゆく。

「いやいや……嘘だろ」

　いや待て、疲れからくる見間違いかもしれない。どうかそうであってほしい光景にそっと瞼を下ろし、もう一度上げて──無い。数ヶ月前「我慢できなくて買っちゃった……」とバツの悪そうに話していたAのショートブーツは陽太郎とレイジの靴の間から見事に姿を消していた。

　タチの悪い冗談であってほしい。殴打にも近いショックを受けた伝達脳はビクとも次の思考を始めない。僅かながら生きている判断力だけを叱咤し、迅は取り出したスマートフォンの通話履歴の上から三番目を乱暴にタップした。爪で乱暴に画面を弾いた音がいやに響く。

　争奪戦後も些細な用事が一日の中に集中しており、玉狛に出入りする機会がほぼ無かったせいで会話はおろかすれ違うことさえなかった。読み忘れ、読み逃し、なにもかもやらかしている。

　時刻は午前12時を疾うに過ぎていた。しかもあと数分で1時を迎えるこの深夜帯、安否も行方も分からないまま無機質なコール音が迅の胸中を痛く掻き乱す。背中から噴き上がる冷や汗がとてつもなく不快だ。

　早く、早く出ろ。心臓からだくだくと溢れていく焦燥を絶つ術などないまま3コール目、迅の体感的には5コール目の終盤でAが着信に応答した、

「もしもし？」

　迅の心境に対しあまりにも暢気すぎる声で。最初に掛けたかった大量の言葉は頭から吹き飛び、そして堪忍袋の緒が切れた。

「馬鹿ッ！何時だと思ってんだ！」

　気遣える余裕は当然無く、滅多に出さない大声で電話越しのAを責め立てた。二階で既に就寝中の陽太郎たちを起こしてしまう前に外に引き返し、返事を待つこともせず迅は怒涛の勢いで言葉を吐き続ける。文字通り、考えるより先に口が動いていた。

「もう一時過ぎるんだぞ！？なにしてんだ、ってかどこにいんの！」
「え、あ、神社行ってきた、」
「外？外！？一人で！？」

　当たり前だよとばかりの肯定が迅の耳を打つ。息を呑んだ。頭からの冷汗が一筋こめかみに垂れ落ち、急激に冷えた身体か寒い。生きた心地がしない。ひとまずちょっと、待ってくれ。こんな夜中に、一人で？

　心の真正面から受け入れ難い事実に思考がぐちゃぐちゃにされているが、とにかくAを今の場から退かすことが先だ。鉛を飲んだように重い喉から声を押し出した。