【WT】From 2 → 1 (ページ29)

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　　ー０２° ページ29

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　迅は気を失うような眠りにつくまで平穏な明日を願いそして唱えていた。──未来はもう動き出している。だから大丈夫。
　
　誰よりも未来を信じることができるのは神ではない。神などいないからその役目は迅悠一ただ一人に預けられている。願い、祈り続けて確実な明日に繋げるための今日を奔走していた。
　寝付きの最悪な一人ぼっちの夜は明けたが後を引く頭痛は神経を緩やかに蝕んでいる。立つ度に歩く度に息をする度に左腰が軽すぎる。少しの気がかりと不安が底の裏側の真下に溜まっていた心に大丈夫程度の自己暗示をかけたところでそこを纏う空白感が消えるはずはない。より善い未来のためといえ次への期待なんかでこの憂慮を全て覆い隠せるほど迅にとって敬慕する最上の存在が小さいわけがなかったのだ。

　しかし可能性に溢れた光る未来に迅は希望を託したかった。生きるうえで大切な感情がごっそり抜け落ちたような生き様をした空閑は昔の自分を見ているようで放っておけなかった。若者の未来はいつだって、それはそれは大樹の枝のように広がっていて瑞々しい。いつでも煌めいている。同じような助けがあって今の自分が生きている。手を貸してやらずにはいられなかったのだ。その未来の代償に形見を手元から放す選択を取らされようとも。

　露ほどには気がかりだった。心の底から大事がった遺愛を未来のためとはいえ手放したことを、なんて情のない決断なのだと思われてしまうのは怖かったから。
　迅の左胸の中で嫌の音を立てて孕んでいた鬼胎は、しかしながらAの澄んでいてよく響く声音によって綺麗さっぱりと浄化されてゆく。はじめからなにもなかったように静かに欠けてゆく。
　自分と同じことをすると、そんな一言を一番に求めていたのが理由ではとてもないのだが、肩の荷が降りたような解放感と心地よい安堵に溢れる胸中は一時的だとしてもたまらなく快かった。

　パタパタと小鳥のように走り去っていったAの姿を想起させて迅はふうと少し息をつく。
　名前を呼んで、手招いて、それでありがとうとあの小さくていじらしい頭の上を撫でて。そうしたら、あの子はきっと言うのだ。ーーわあ迅くん、急にどうしたの？なにかあったの？ ──何も知らない純な顔をして、少しはにかみながら、言うのだ。

　ホルダーの着いていない左腰を撫でる。何も無かったが、これまでもそうだったようなからりとした空白ではあったが、今はあまり寂しくない。